3章 美味しいパンケーキの作り方

第1節 ……いや、無理だって

 龍崎りょうざきは頬杖を突き、朝食の準備をするあおいの姿を眺めていた。


 肉が焦げる臭いと、脂が弾ける音。肘をついているテーブルの感触に、グラグラと揺れる不安定な椅子。何年も使っているためにかガタが来ているのだ。


 そこでチンと音が鳴る。葵はその音に反応し、トースターからパンを取り出し、マーガリンを塗り始める。


 そんな光景を眺めながら龍崎は小さめに息を漏らした。何時もとは代わり映えのない朝であるにも関わらず、落着くことができない。


「……いや、無理だって」


 思わず龍崎は口から言葉を漏らす。だが、そのことに直ぐに気がつき、ぱっと口元を手で押さえてから、葵へと視線を向ける。


 だが葵は、何事も無かったかのようにして朝食の準備を続けていた。

 あの日。ファミレスで涼香から話を聞いたあの日から、すでに3日が経過している。


 

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