第7話 宿題 > スタンピード > 国王

 ニカとノノは、村の北でキビキビと動いてテントを設営している騎士たちを眺めていた。

 優しい風がふわりと吹いたときにオレンジの甘い香りがした。


 「香水にしたの?」

 「うん!ニカが選んでくれた香りだったから!」

 とても、とても、ニコニコしている。


 インベントリから冷えたキュウリを取り出して、パキリと二つにおり、大きい方をノノに差し出す。

 「はい。」

 「ありがと!」

 シャキシャキ、シャクシャクと二人でキュウリを食べながら、のんびりとテントの設営を眺める。


 「テントなんて秋の収穫祭みたいだ。」

 「うん。あ。金髪の女の子。」

 秋の収穫祭は村の広場にテントを建てて、朝まで踊り騒ぐ祭りだ。今年こそ寝ないで朝まで楽しむんだ!


 「ライラおねーちゃんだよ。さっき、ジジの家に案内したから、多分、ジジの知り合いだよ。」

 「そうなんだ。」

 「そうだ!紹介してあげるね!」

 そう言えって、くわえていた最後の一口を指で口に押し込み、ノノの手を取ってテントに向かう。一番大きなテントの前につくとライラは叫んでいた。


 「だぁーー!!スタンピードの影も形もないじゃと!村を助けるついでに溜まりに溜まった書類を紛失しようと思っておったのにーー!!!!」

 「ライラおねーちゃん?」

 「こほん。おお。村の子ではないか。なんじゃ。わしにようか?」

 「ニカだよ!友達紹介するね!」

 「は、はじめまして。ノノです。仲良くしてね!」

 「…完全に子供と思われておる。ふん、わしは宰相じゃぞ。書類仕事もいっぱいあるのじゃ!子供と遊ぶ暇はないのじゃ!」


 その日、陽が暮れるまで楽しげに遊ぶ子供たちの声が聞こえていた。いつも以上に…。


 ベットに寝そべりながら、僕は考えていた。

 ライラおねーちゃんってすごいなー。子供なのにあんなに立派な仕事をしてるなんて。でも、書類が溜まって困ってるみたいだったなー。なんとかしてあげられないかなぁ。

 ふと、スキルを見ると…


 ≪超異次元召喚≫


 ・MP10% タマポチ 使用不可

 ・MP20% ギアメカ 使用不可

 ・MP30% アブソルブ 使用不可

 ・MP40% アドミン 使用不可

 ・MP50% セクレトリ 使用可能


 あれ?モンスターもいないのに使える。


 スキル!≪超異次元召喚≫セレクトリ!!


 寝そべっている僕の上の空間がひび割れ、茶髪で三角形の眼鏡をかけ、貴族が着ていそうな透けるような白いブラウスにタイトなスカートのキレイな女性がゆっくりと僕の上に舞い降りてきた。

 「あら?おねんねのお手伝いでしょうか。このセレクトリ(ブヒッ)喜んでお手伝いいたします。」

 舞い降りた後、僕にまたがって座っていた気の強そうな女性が、僕の頭を優しくなでてくる。

 「ち、ちがうよ!まだ、寝むくないもん!そんなお子様じゃないよ!」

 「これは失礼しました。では、私を呼びましたのは、どのような理由でしょうか?」

 「えーと。スキルが使えたから使ったんだけど、嫌だった?あ!夜だしごめんね。」

 僕は夜に女性を呼び出してしまったことに気づき、申し訳ないと告げた。

 ブヒッ

 「いえいえ!とんでもない!(ブヒッ)朝昼晩お好きな時にいくらでもお呼びください!私は何か作業があると呼び出せるので、何か作業について考えていらしたのでは?」

 「友達のことを考えてたの。話聞いてもらっていい?」

 「はい。」

 ベットの横に座り直したセレクトリの横に僕も座って、ライラおねーちゃんが書類を溜めて大変そうだった話をする。

 「で、なんとかしてあげたいと思ったんだけど、子供の僕じゃ何もできないから…。」

 「そうですねー。もう少し魔力があれば何とかなるのですが、ご主人様のMPは最大25で、召喚時に使用したMPは50%で13。とても足りないです。(ブヒッ)」

 「そっかー。あ!魔石あるよ!」

 僕は両手に抱えるだけの魔石をインベントリから取り出した。

 「ご主人様…。これは?」

 「アドミンに助けてもらった時に手に入れたんだけどダメだった?」

 「いえ。スキルを使用して取得したモノはご主人様のモノですから、なんの問題もありません。」

 「じゃ!まだ、あるから全部だすね!」

 「いえいえ。これだけあれば、十分です。むしろかなり多いです。」

 魔石を渡して、最近あったことをアレコレ話していると、うつらうつらと睡魔に襲われて寝てしまった。


 「(ブヒッ)寝顔をもっと見ていたいですが、仕事をしないといけませんね。」

 ご主人様を優しくベットに寝かせ、ベットから浮き上がり、ポン!と鼻が特徴的なピンクの可愛らしい真の姿になり。ポポポポポンと仕事をするために分裂していく。

 「ブヒッ。初仕事です。キッチリいたしますよ!」


 その夜、数百の分身体が、王宮や貴族屋敷の資料室、帳簿や裏帳簿に至るまで目を通していたのだが、気づくものは誰もいなかった。


 ―― 超異次元召喚魔法Lv2 20/20

 ―― 超異次元召喚魔法がLv3に成長した。


 次の日。


 「「ラーイーラーちゃん!あーそーぼ!」」


 「ふぉぉぉっ!!!終わっとるのじゃ!終わっとるのじゃ!!」

 「ニカにノノ!聞いてくれなのじゃ!10年くらいたまっていた報告書。3年はたまっていた決裁書類、しかも、こんなに、空決済や虚偽決済の書類が混じっておったのが終わっているのじゃ!!!きっと妖精さんなのじゃ!妖精さんなのじゃ!」


 ――空決済、虚偽決済

  中身のない開発などを申請して、お金だけを持っていく詐欺で犯罪である。


 「遊べるってこと?」

 「少々待て、書類と一緒に送る手紙を一通だけかく。」


 ――ライラから国王への手紙

   妖精さんがスタンピードを解決しました。宿題しょるいも終わらせました。100年分の有給をとります。

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