好感度はバラの花束100本です


 「私」がやっていた乙女ゲームの好感度は、バラの本数であらわされていた。


 そして、好感度を上げるために重要なのは、目当ての攻略キャラクターとのイベントであり、そこで見られるスチルの回収はプレイヤーにとって無くてはならないものである。と思っている勝手に。


 ことある事にあらわれる選択肢・分岐点で上手く好感度を上げ、そこに能力を上げることで得られる好感度を足し、キャラクターを攻略し、1年最後を締めくくる全生徒出席のパーティーで攻略キャラクターにダンスを誘われる。


 のが「私」がやっていた乙女ゲームの一先ずなエンドである。


 しかし、このエンドは好感度を示す赤いバラの花束が90本あれば問題ない。

 残り10本。バラの花束100本を集めると、パーティー後のスペシャルストーリーが解放される。


 もちろん「私」が目指すのは最推しでのスペシャルエンド。なのだが、


「最推しは非攻略対象。何をどうすれば好感度が上がるのかしら」


 そもそも非攻略対象にもスペシャルストーリーは機能してくれるのか。そんな不安を抱えつつ、まずは目先のパーティーの招待をどう乗り切ろうか考える。


「……クロエ」


「レオナルド。どうしたの?」


「明日の午前中にロア様が来るってさ」


「流石お母様。早いわね」


 ジャレットとセシルの家から届いた招待状を机に置く。

 上質な紙にはうっすらとそれぞれの家を表すマークが印字されている。封蝋にも同様のマークが使われている。

 日本で言う家紋みたいなものだ。

 封筒に書かれている宛名はきっと、ジャレットとセシルが書いてくれたのだろう。


 ジャレットは細い繊細な文字だが、とても読みやすいお手本のような字で、セシルは丁寧で綺麗だが、勢いのある男性らしい字だ。


「……本当に、俺がエスコートしなきゃいけないのか?」


 カチャリ。とテーブルの上に紅茶を置いたレオナルドが、珍しく落ちた声で呟いた。


 デビュタントから今まで、参加せざるを得ない夜会のエスコートは兄のオリバーが務めてくれていた。


 婚約者が居るのに何故?


 なんて疑問を持ってはいけない。だって根本は乙女ゲームだもの。


「諦めなさい。一緒に1曲。って言わないだけ優しさよ」


「踊らなきゃいけなくなったら自室に閉じ籠るわ」


「……そんなことしたらクビかしらねえ」


「……、それは困る」


 レオナルドの家系は代々アッカーソン家の執事である。

 そしてレオナルドは長子。ちなみに弟が2人居るが、まだ幼いため働いてはいない。

 と言うことは、執事長はレオナルドの父と言うことだ。

 アッカーソン家のお嬢様をエスコートする。という仕事を放棄したらクビだけでは済まないだろう。


「じゃあ、頑張って」


 彼は彼なりに心の闇を抱えていて、長子として責任を持っていて、それが彼--レオナルドを攻略するのに大切な鍵なのだが、「私」はその鍵を使うことは無いだろう。

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