第15話 睡眠学習の共有

シズは暖かな日差しに包まれ目が覚める。そして、自分の右手に夢の中で抱きしめていたいつもの感触があった。


「ん~?」


シズが大事に握っていたのは、いつの間にかこちらに来ていたトゥカの金色に輝く綺麗な尻尾だった。その先を辿ると、すでに起き上がっているトゥカの姿があった。


「もうっ。 満足した?」

「まだ」


―――ボフッ


トゥカは尻尾をシズの顔に押し付けた。シズは押し付けられたトゥカの尻尾を堪能する。


「あったか~い。 それにいい匂い……」

「嗅ぐな!」


ボファッ


優しく尻尾ではたきベットから降りると、トゥカは八重歯が見えるほど満面の笑みを浮かべる。


「おはよう! さっ、朝ご飯の準備しよう!」

「うん。 おはよう」


二人は未だ寝ているミラを起こさないように朝食の準備を進める。二人で朝食を作るのは久しぶりだったが、二人の息は自然と合っており、すぐに出来上がった。

その美味しそうな匂いにつられてかミラが起き上がる。


「おはよう……。 おねぇちゃ―――ふわ~」

「あらら。 まだ寝てていいんだよ」


ミラは大きな欠伸と共にベットから降りると、昨日と同じ席に着いた。

そして二人が作ってくれた朝食を見ると、一気に目が醒める。


「なにこれ!! 美味しそう~」

「それじゃみんな席に着いたことだし」

「「「いただきます!」」」


テーブルに並べられた豪華ではないが、いつも通りの芋をベースにした料理を食べ始める。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




朝食を食べ終えた三人は、昨日の睡眠学習について話を進める。


「結局、あのエマって子はシズの妄想の存在? なんだよね?」


トゥカの質問に何と答えたらいいか分からず、首を傾げ考え込む。


「ん~。 そうなるのかな? でも見たことない攻撃もしてきたよ。 あの最初に私が攻撃を食らっちゃった速い弾! 昨日戦ったときはあんなの使ってなかった」

「妄想じゃないと思いますよ」


ミラが悩んでいるシズに、キッパリと答えてあげる。その目は真剣で、冗談で言っているようには見えなかった。


「ミラちゃん、どういうこと?」


するとミラは目を見開き黄色に輝かせ、観察眼を発動する。そしてそのまま自分の指差しながら説明する。


「私ずっとこれで見ていたんです。 観察眼は使う人によって見えるものが若干異なったりするんですが、私の場合は真実か虚偽かを見分けることができます。 それによると睡眠学習内にいたエマさんは真実。 つまり本人といって間違いはないでしょう」

「え……。 ってことはエマにも睡眠学習内での記憶が……」

「それはまだ分かりません。ですが、 私の推測では問題ないと思います」

「あ~、私の時と同じなのか」


それはシズが初めに睡眠学習を体験した際、トゥカと戦ったがその本人は朝にはケロっとしていた。ならば今回の睡眠学習で、同じ立場にいるエマも朝には記憶がないと考えられるからだ。

だが、シズは今回の睡眠学習でトゥカとミラが記憶を保ったまま朝を迎えていることに疑問を感じる。それに睡眠学習内に出現できたことも謎だ。


「それじゃあ何で二人は無事なの?」


質問されたトゥカとミラは顔を見合わせ、首を右に傾げると同じ言葉を発した。


「「……さあ?」」


そこまで考えていて肝心なところが分かっておらず、思わず椅子からずり落ちそうになる。だが、シズにも分からないことは他の二人に分かれというのも無理があると思い、すぐに体勢を正す。


「あっ!」


突然ミラが何かを思いついたかのように席を立ちあがる。


「あれがないですか?! えーっと、ほらっ! 寝る前に一緒に手を繋いだじゃないですか!!」

「ええぇぇぇええええ!! それが原因なの?!」


シズは思いもしなかった出来事に驚きを隠しきれず、正したばかりの姿勢をすぐに崩して席を立ってしまう。

すると、トゥカが自分の手のひらを眺め、シズの方に向けてくる。


「付加……。 そうだ……絶対そうだ。 スキルの付加だよ! 私がシズにスキルを一時的に移したようにさー!」

「ってことは睡眠学習は私だけじゃなくて、付加すると一緒に来ちゃうってこと?!」


トゥカの意見は、皆の考えを納得できるほどの説得力を持っていた。確かに付加できるスキルとできないスキルは存在する。睡眠学習はシズだけのスキル故にそのどちらかか分かっていない。だが、今回の件でハッキリした。


「睡眠学習は付加することも可能……。 これは予想外! どうしよぉ~」


ミラが監視役ということもあり焦り始める。つまりは付加の持続時間的に一夜限りだが、監視対象が増えてしまうこともあり得るからだ。


「大丈夫大丈夫! ここで寝るのは私たちだけ・・・・・なんだし問題ないよ~」

「そ、そうだね。 うん何もなかったことにしよう!」

「えー、それって後からミト様に怒られないの~?」

「トゥカお姉ちゃん……もしかしてお母様にぃ……」


目頭に水を溜め、今にも泣き出しそうな表情でトゥカを見つめる。それは子供だけが持つ特権。誰も逆らえないその愛おしい表情に、トゥカも心を打たれる。


「わかった、言わないわよ~。 だからその顔止めて……」

「トゥカお姉ちゃん大好き~」


さっきまで泣きそうだったその顔は、パッと変わり急に笑顔になる。


「うわ~。 子供って恐ろしい」

「トゥカー。 声に出てるよ」


心の声が漏れてしまっているトゥカに注意を促したシズは、気になっていたことを試す。


「トゥカちょっと動かないでね~」


シズは観察眼を発動させると、自分とトゥカのステータスを確認する。そこに映し出されていたステータスは、シズの思っていた通りのことが記されていた。


「やっぱレベル上がってるわ。 おまけにスキルも増えてるよ」

「えっ!? 本当!! ねぇねぇ、読み上げてよ」

「仕方ないな~。 んとね―――」


【トゥカ・リティナ】

職業:騎士見習い

種族:獣人種(狐) / 年齢:15 / 性別:女

Lv.05(上限Lv.99) / Exp:0260 / 1950

HP:840 / 840 MP:178 / 178

STR:256 ATK:224

DEF:77 AGI:260

LUK:16

所持スキル:『光源こうげんLv.03(上限Lv.10)』『―――』『神獣解放Lv.10(固定Lv.10)』『初級武術・・・・Lv.02(上限Lv.05)』


バランスの取れた高ステータスにシズは読み上げている最中、心が苦しくなってきた。なぜならLv.08だった頃のシズのステータスを軽く凌駕しており、魔法まで使えるからだ。


「強すぎ……」

「え? そうなの? 割と普通だと思うけど」


素で言っているトゥカに悪気があるわけではない。獣人種は身体能力が高いため人種に比べ、ステータスが高いことはよくあることなのだ。


「それでっ、シズはどのぐらい上がってたの?」


間をグッと止めてくるトゥカに、自分のステータスも読み上げ聞かせてあげる。


【シズ・マークラス】

職業:冒険者

種族:人種 / 年齢:15 / 性別:女

Lv.09(上限Lv.99) / Exp:0300 / 5500

HP:607 / 607 MP:0 / 0

STR:202+α ATK:108+α

DEF:023+α AGI:128+α

LUK:016+α

所持スキル:『観察眼Lv.01(上限Lv.01)』『睡眠学習Lv.04(上限Lv.10)』『初級剣技Lv.02(上限Lv.5)』『耐圧力Lv.01(上限Lv.01)』

 (※+α … 初信徒ボーナス。中身は不明)


トゥカと違い、Lv.08からの上昇なのであまり伸びている感じはしなかった。

だがシズにも新たにスキルが加わっており、観察眼同様スキルレベルが無いに等しい便利なスキルだった。これは、今回の睡眠学習でトゥカに光源を付加してもらい光速で飛ばされ耐えたことから加わったものだ。

それにしても、シズにとってはトゥカに一夜でステータスを追い抜かされたことのショックの方が大きかったようだ。


「トゥカに負けた……」

「まあまあ、種族の壁は仕方ないよ~」

「でも絶対に―――」


トントンッ


ミラが机を叩き、話を遮る。そして、ミラの後ろに立てかけてあった時計を指差し、時間を知らせる。


「うわぁぁぁああ! 時間やっばぁ!!」


トゥカはこれまでにないほど毛を逆立たせ、急いで支度に入る。いつも穏やかなトゥカがあれほどまでに俊敏に動く姿は初めて見る。


「早速、ステータスが役に立ったね……」

「はいはい。 ありがとさん! 行ってきまーす!!」

「「行ってらっしゃ~い」」


急いで着替え鞄を掛ける暇さえ惜しいのか手に持ったまま、家を出ていった。それを見送ったシズとミラもゆっくりと支度をし、ギルドへクエストを受けに向かうのだった。

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