第9話 再びジュエンクラーラへ

ミトからミラを監視役として預けられたシズとトゥカの2人は、ミトと雑談交わした。内容は今後どうしていくかとの相談などで、ミト自身シズとトゥカが冒険者・騎士としてやっていくことには反対しないとの結論だった。流石の神でさえ、そこまで一般市民を拘束することはないらしい。

そして、気づくと起きた時は朝だったのに、話を終えるころには昼過ぎになっていた。すると、トゥカが席を立ち上がる。


「そろそろお昼ですね。 ミト様、お昼食べていかれますか?」


ミトは首を横に振り、遠慮の意思を伝える。


「これから色々と仕事がありますので、今日のところは・・・・・・・遠慮しておきます」


そう言うとミトは席を立ち上がり、横にいるミラの方を凝視する。


「ミラ。 ちゃんとシズさんとトゥカさんの言うことは聞くのよ」


ミトの言葉はミラにとっては不満要素があったようで、ムスーっと顔を膨らませ、怒った様な表情をする。


「分かってるよ。 もう子供でもないんだし!」


どうやらミトに子供扱いされたことが気にくわなかったようだ。容姿はまだ10歳いっているかどうかなので、親のミトからするとまだまだ子供なのだろう。

シズはフォローするようにミトへ、ボリュームを抑え声をかける。


「まだ難しいお年頃なのですね」


だが、ミトは嬉しそうにし、それはまるでいつしか見た母親の顔にそっくりだった。彼女は軽く微笑み、こちらもまたミラに聞こえないように返してくる。


「そこがまた可愛いのよっ☆ ちょっと大変かもしれないけどよろしくね」


ミトとシズが内緒に話をしていると、ミラがまたムスーっとしだす。


「ん~……」


2人はその彼女の顔を見ると、思わず頬が緩んでしまった。


「(なるほど、確かにこれは可愛い!)」


トゥカはそんなミラの機嫌を取り戻そうと、ミラに向かい机を軽く2回指で鳴らし話題を振る。


「ミラちゃ~ん! お昼何食べたい? といっても口に合うか分からないけど」


するとミラはトゥカの方に振り向き、きらきらしら目で子供のように叫ぶ。


「お芋のスープ!!」

「「……えっ」」


あまりの庶民的な発言のギャップにシズとトゥカは目を点にする。ミトはというと、ため息をつきミラがなぜそのような発言をしたか語る。


「すみません。 恥ずかしながら神故に、普通の食事というものを知らない子なのです……」

「「な、なるほど……」」

「あ、私はもう行かなくてはならないので、ここらで御暇しますね」

「玄関まで見送りし―――」


トゥカがミトに近づこうとすると、それをミラが引き留める。そしてミトは何もない玄関の方へ手をかざすと、何かを押すような動作をする。


ピシャッ!!


「うわっ!! 亀裂が……」

「何これ……」


大きな破傷音とともに空間に大きな亀裂が入る。縦に割れたその亀裂は淡い青色にも緑色にも輝いており、その先は全く見えなかった。

ミトは顔を半分だけシズたちの方に向け、頷くように会釈をするとその亀裂の中へと吸い込まれるように入っていった。その後、亀裂は光を伴いながら閉じていき、やがて元通りの空間へと戻った。


「やっぱりミト様ってすごい人何だね……」


トゥカは改めてミトの凄さを実感し、先ほどまで亀裂のあった方を眺め、茫然とする。そして、我に返ると昼食の準備をし始めた。


残された3人は、軽い雑談をしながら遅い昼食を食べ終わると、各々の目的に合わせ準備をし始める。トゥカは騎士へなる為募集場所であるジュエンクラーラの城へ、シズは冒険者になる為にジュエンクラーラのギルドへ、ミラはシズの付き添いという形になる。

そして、準備が終わると3人は仲良く一緒に玄関を出た。


「「「行ってきます!」」」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




3人はしばらく森を歩き、昨日も訪れた転移門へと辿り着く。昨日とは人の数が圧倒的に少なく、ほぼ待ち時間なしで通れるような状態だった。


「今日は混んでないんだね」

「そりゃそうでしょ。 普通の平日だし」

「おっ?」

「ミラちゃんどうかした?」


ミラが転移門へ興味を示す。すると、ミトの時同様、目を見開き一瞬だけ観察眼を発動させた。


「ううん。 何でもない。 ただ知り合いが作った物・・・・・・・・・だったから気になっただけ」

「へぇ~。 やっぱり神様の知り合いってすごい人ばっかりなんだね」


シズはその製作者について気になったものの、自分が見てもしょうがないと思い調べるのはまた今度にすることにした。

そして、案の定すぐに転移門を通ることができ3人はジュエンクラーラへとやってきた。


「ほぉ~! ここが母様の創った国か!」


ミラは初めてみる大きな街並みに興奮している。シズも改めてジュエンクラーラを眺める。昨日来た時は街を見ている暇がなく、滞在時間はほぼ数十分もないぐらいだった。


「確かに綺麗なところだよね。 うちの村とは大違い……」


2人が転移門の前で惚けていると、後ろにいたトゥカから後押しされる。


「ほらほら2人共、そこにいたら邪魔になっちゃうよ。 私もちゃっちゃと手続き済ませてくるから、その間にそっちの申請も早く済ませちゃってね! ギルドの本部は向こうだから」


トゥカは右の通りを指差し、ある程度の場所を伝えると真ん中の大通りへと、駆け足で姿を消して行った。

真ん中の通りはいわゆる大通りで、そのまま真っ直ぐに行くと城へと繋がっている。ちなみにトゥカが教えてくれた右の通りは、武器や防具などの装備品などを取り扱った店が多い商店通りだ。如何にも冒険者らしい通りに、シズは心を弾ませる。


「よしっ! それじゃぱぱーっと行って、ぱぱーっと帰りますか!」

「うん!」


シズとミラは仲良く手を繋ぎ、目的地のギルドへと目指すのだった。

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