始まりの日

第1話 2人の少女

ここは、とある小さな村・マイス村という、行商路からも国からも遠い森の中に位置する村である。

これといって特徴のない村で、居住している人たちの大半が『村人むらびと』『商人しょうにん』だ。その他には、村出身の『一般兵士いっぱんへいし』が門番として何人かいるだけ。

そんな小さな村でも国の教えは絶対であり、15歳を迎える少年少女は『スキル』を保有するために神殿へ赴かなくてはならない。

そしてそこから新しい少年少女達の未来が始まるのだ。


このマイス村でも2人の少女が15歳を迎え、今日がその神殿へ赴く日だ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「―――――ふわぁ~……。 もうあさ~?」


一人の少女が日の光を浴び、目を覚ます。すると、その少女の顔を覗き込む顔が一つあった。その顔は呆れたような顔をしており、冷たい目線をこちらに向けている。


シズ・・……」


そこにいたのは、生まれた日は違うが月が一緒で、双子の姉妹の様に育ったトゥカ・・・リティナ・・・・だった。彼女は狐種の獣人で、綺麗な金色の毛並みをしている。

とりあえず、可愛らしく前後にぴょこぴょこ動いている彼女の耳を触り、寝起きの優しい声質で朝の挨拶をする。


「おはよう、トゥ―――」

「もうお昼だよーーー!!」


シズは急に耳と尻尾を荒く上に上げ、叫んだトゥカを見て驚く。彼女は何にそんなに怒っているのか理解できずに、首をかしげる。そして一つの解に至った。


「あはは、私結構寝ちゃってたね。 今日私がお昼の当番だっけ?」


シズとトゥカの両親は、『スキル』が有能なものだったらしく、国に属して騎士や冒険者をしている。その為、まだ子供の彼女らを身内のいる安全な村に置き、仕送りだけもらっている状況であり、共に暮らすように言われている。そして彼女らは、独自のルールで家事洗濯を当番制で回していた。

だが、それもどうやら違ったようで、トゥカの金色に輝く尻尾が逆立ったままだった。


「え? 何でまだ怒ってるの……トゥカ?」


トゥカは更に顔をプクーっと膨らせこもった声で、問いを問いで返してきた。


「今日は何の日でしょう……?」

「ん~」


寝起きであまり回っていない頭を高速で回転させる。ベットの上で腕と足を組み考える。

そして、トゥカの姿をチラッと見るといつもと違う服装をしていることに気づく。いつもは、いかにも村人らしい茶色や黄色の服を着ているが、今日は派手な白色のワンピースを着ている。


「あっ! 恩恵めぐみの日だ!」


するとトゥカの顔が晴れ、にっと笑顔になる。彼女は笑うと八重歯がチラッと見えて、それが見える見えないで笑顔度が変わる。

今のトゥカは、八重歯がちゃんと見えているので大満足の笑顔だ。もし見えないときはもうお察しである……。


「そうだよ! 昨日、朝早くから行こうねって言っててこれだから……。 本当シズには困ったものだよ」


トゥカはそうは言っているが、尻尾が左右に揺れ機嫌が良いようだ。そのふわふわした尻尾を見ていると、触りたくなったシズは尻尾に抱き着き、許しを請う。


「トゥカごめん~許して~」


トゥカは突然飛びついてきたシズに驚き悲鳴を上げる。そして、せっかくお手入れした尻尾がグシャグシャにされないよう丁寧にシズを剥がそうとする。


「わかったわかった。 許すから尻尾から離れろよっ!」


優しく剥がすにはさすがに諦め、力任せにシズを剥がす。トゥカは少しごわついた尻尾を丁寧にブラッシングし始める。

そして、ブラッシングしている最中、尻尾に違和感を感じた。


「……ん? んんん!!?」


トゥカの尻尾についていたのは水。というよりは粘り気のあるもの。そう唾液だった。

それを見たシズはまだ口元についていた唾液を急いでふき取りそっぽを向く。


「シズゥ~」


笑っている。トゥカは笑っているが八重歯が見えない。目も薄っすら開いておりコワイ。

すぐさま違う方向を向いても、追いかけ視界に入ってくる。こうなるともう逃げられない。観念したシズはベットの上で土下座をする。


「ご、ごめんなしゃい」

「許さん」

「ええぇーーー!」

「嘘。 まあいつものことだからいいよ。 それより早く支度して。 この時間だと絶対混でるよ」


トゥカの笑顔が戻りシズは一安心する。

シズはゆっくりベットから下りると、トゥカと同じ白いワンピースに着替える。

そして、トゥカがあらかじめ作っておいた昼食のサンドイッチを鞄に詰めると、忘れ物はないか確認する。


「準備OKだね」

「そうだね。 それじゃ転移門ゲートまで走ろう!」


トゥカはシズの手を取ると、玄関を開け、村の近くにある国と繋がる転移門へと急ぐのだった。

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