第14話 神獣を冒瀆する者に死の報復を

ドラゴンハンティングチームは分業化が進んだ機能的な集団だ。



ドラゴンを倒すための戦闘を行う刃刺しを中心とした捕獲隊はドラゴンを探索して息の根を止めるまでを受け持っている。



ドラゴンが倒されたら解体チームが手早くドラゴンを解体して利用可能部位を切り分け、工業用の原料に使える部分を輸送に耐えるように加工するのだ。



貴史がドラゴンにとどめを刺すのと同時に、どこからともなく現れた解体チームがドラゴンに取りついてその巨体を解体し始めていた。



こうなると、捕獲の主役となる貴史も手持無沙汰だ。



解体されるドラゴンを前にしてホルストは毛布を羽織って、うなだれていた。



「あんなへまをやるなんて、あっしにとっては一生の不覚ですよ。おまけにみっともないところをヤースミーンさんに見られちまうし。」



ホルストのぼやきを耳にしたヤースミーンは彼を元気づけようとして口を開いた。



「誰でも失敗はあるからそんなに落ち込まなくてもいいですよ。」



ヤースミーンの言葉を聞いて、ホルストはため息をついてうなだれた。



ヤースミーン、それはフォローする方向性が違うよと貴史は思ったが、いまさらどうにもならないので何も言わないことにした。



解体が進むドラゴンを前にして、クリストはリヒターを捕まえて相談を始める。



「リヒターさん、このドラゴンの肉はどうするつもりだ」



「肉の部分には商品価値が低いので、以前は捨てていたのですがね。最近はタリーさんが食用に大事に使ってくれるからとりあえずエレファントキングのダンジョンまで運ぶつもりでやす」



リヒターはチームの総括の責任者なので、その発言力は強い。



「そういってくれると助かるよ。思ったより避難してきた住民が多いのでこのドラゴンの肉も彼らの食料に当てたいのだ」



リヒターは、クリストの言葉を聞いて首を傾げてみせる。



「でもこいつはマンイーターだったんですぜ、それを食べるのはミスリル神のお怒りに触れないでしょうか」



「魔物の軍勢に急襲されてやむにやまれずなのだ。ミスリル神もお許しくださるさ。」



リヒターは少し考えていたが、仕方なさそうにうなずくと解体チームに指示を伝えに向かった。



解体チームの手で一時間もたたないうちにドラゴンは解体・梱包された。



そして、ドラゴンハンティングチームの渉外担当が手配した隊商たちが次々と到着し梱包されたドラゴンを運び始めた。



隊商を中心に、レイナ姫たちが築いた村から避難してきた住民たちも歩き始め、一行の人数は膨れ上がる。



貴史は列の中ほどをヤースミーンと一緒にゆっくりと歩いていた。



「シマダタカシ本当に治癒魔法は使わなくてもいいのですか」



「ああ、ヤースミーンも支援魔法とかいろいろ使ったからMPを消費しただろ。新手の襲撃を受けるかもしれないからできるだけ魔法は節約した方がいいと思うんだ」



貴史は、ドラゴンが倒れた時にその背中にいたので、一緒に地面に叩きつけられて打撲傷を負っていた。



ララアはやせ我慢気味に痛みをこらえて歩く貴史を見て、聞きなれない呪文を詠唱し始めた。



ヤースミーンがハッとした表情で振り向くが、その時にはララアは呪文を唱え終えて、貴史に向かって杖を振る。



ララアの杖からほとばしるように放たれた青い光は、貴史の体を包んでいた。



「あれ、痛みが無くなった。ララアが治癒魔法を使ってくれたのか?」



貴史は単純に喜んでみせるが、ララアは無言でうなずき、むしろ苦い表情で歩き続けていた。



普段は無邪気なララアの表情はいつになく暗い。



「ララアどうしたの、レッドドラゴンと戦った時に怪我でもしたの? 」



ヤースミーンが心配して問いかけると、ララアは大きなため息をついてから話し始めた。



「私たちはレッドドラゴンを聖獣として大切にしていました。それなのにあのレッドドラゴンをマンイーターに仕立てた者たちは、彼の心をねじまげて人を襲うように仕向けたのです。」



その話自体は、リヒターたちも既知で貴史たちに概略を説明してくれたことがあった。



「私はレッドドラゴンにそんな仕打ちをした連中を許さない。」



レッドドラゴンに人を襲わせる行為は貴史やヤースミーンも快く思っていなかったが、ララアにとっては神獣を冒瀆する行為に他ならなかったようだ。



「でもねララア、使える魔法には限りがあるから、今回のような強敵を相手にするときは慎重にしなければいけないよ。」



貴史はやんわりとララアが無茶をしないように釘を刺そうとする。



ララアの使う魔法はヤースミーンが使うものと異なり、強力な攻撃力を発揮するものもあるが、彼女とて使える回数には限りがあるに違いない。



「シマダタカシさんは勘違いしている。魔法の力はその使い方を誤らぬ限りはクリシュナ様が無限に供給してくださるのです」



ララアは再び呪文を唱えると、杖を振るう。



森を出て平原を進んでいた貴史たちの左の方向に広がる平原のはるか彼方に、大きなオークの木がぽつんと立っていたが、突然の雷鳴と共に大きな稲光がオークの幹を引き裂いていた。



裂けて倒れた幹は青白い炎を上げ、パチパチと音を立てて燃え盛る。



「正義のために使う限りは私の体が朽ち果てるまでクリシュナ神はその力を与え続けるはずです、私は必ずやその連中を葬り去ることでしょう」



ララアは静かな態度の中に決意をにじませて、戦いを宣言した。

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