5日目 お見舞い


 今日は昼間からお見舞いに。母親に「勉強しないならお見舞いくらい行ってきなさいな」と。祖父のね。


 この辺は病院もそんなに多くない。というか大きめの病院は車で1時間くらい走らないとないんだよね。だから、この近辺の人々は大抵祖父の入院している病院にお世話になることになる。



「じーちゃん、元気かー」


「おー、悠じゃないか。じーちゃんは元気だ!」


「じゃあなんで退院しないんだよ(笑)」


「あのな、街の大病院の方から移って来てくれた看護師さんがな、美人で巨乳なんだよ。巨乳は男のロマンだろ」



 ……忘れてた、このエロジジィ。そうだそうだ、母さんにつれられて帰省する度に、孫に自分の興味のなくなったエロ本を押し付けてくるようなやつだった。それも丁寧に袋綴じが切られたやつ。一体どこからそんな数のエロ本を入手してんだか。



「ばーちゃん泣くだろ……」


「バカ、ばーちゃんは昔綺麗だったんだぞ?!」


「じゃあばーちゃんでいいじゃん」


「しわしわよりぴちぴちの方がいいだろう?」



 もう末期症状かな、頭が(笑)確かにシワシワよりピチピチが良いかもしれないけど、既婚者が言うな、結婚何年目だよ?!



「あ、そういえばお盆の期間は一回家に帰れって叔父さんが行ってたよ」


「ぐぬぬ……アイツは良いよな、職場に、同僚に美人がおって……」



 叔父さんも一応この病院で看護師というか、主にお年寄り専門のヘルパーさん的なことをやっている。主治医からの伝言も大体叔父さんからまわってくる。叔父さんも大変だよなー、このエロジジィの為なんかに伝言役をやらされて。



「じゃあ、僕あとちょっとでまたあっち帰るから、早めに退院してよ」


「……う、検討しておきます」


「実の孫と看護師、どっちがかわいくて大切なんだよ……って、真剣に悩まんでいい!じゃあね、帰るからな」


「じゃあなー」



 とんだエロジジィだ……。








 僕はその足で別の病室にも向かってから家に帰った。


 夏の日差しが差し込む病室に、純白の眠り姫が一人。美しいその体に、何度触れようとしたことか、その麗しい唇に、何度口付けしようとしたことか。


 僕は我慢して彼女の手の甲に軽く接吻キスをする。



「……僕のお姫様、はやく目を覚ましてくれよ」



 この声は君には届かない。届くことはない。











 今日の彼女は近くて遠い。

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