1.1.7 播種
「キャアアアアあああああああああ!!!!」
「逃げろ!早く!早く行けよ!!!」
「押すな!おい!」
「助けてぇええ!!!」
生徒たちは大混乱へと陥った。聖堂氏はマイクを使い、皆へ呼びかけた。
「皆さん落ち着いてください!直ちに研究員がスタンガンで気絶させます!猿を刺激しないように静かに退出してください!」
皆は一斉に聖堂の方へ振り向いた。
「ふざけんな!!」
「こんな時に落ち着いていられないわよ!」
「うるせえ!!!!!早くやれよ!!!」
「逃げるのが先でしょ!!??」
ブーイングの嵐が巻き起こる。その最中、
「ケ、ケンスケくん!起きて!大変なことになってるから!猿がきちゃう!逃げよ!」
とエミは強めにケンスケの肩を叩き、彼を起こした。ケンスケはぼんやりと顔をあげた。そしてエミに手をひかれ、出口へと向かった。
『フーッ…フーッ…オオオ!!!!オオオオ!!!』
鋭く大きい前歯を剥きだした一匹の猿は威嚇のような叫び声をあげる。猿の歯はもはや牙のように太く、鋭利な形状へと変貌を遂げている。その猿は、スタンガンを手汗まみれで握る一人の研究員をジッと見つめる。生徒は全ての希望をその研究員へ託し、講義室の出口から数人ずつ詰まらないように出る。
『フーッ…フーッ…』
「よしよし、いい子だ。いい子だ。その調子でゆっくり近づいてくるんだぞ…」
『フーッ…フーッ…』
「よしよし、よしよ~し」
研究員は猿との距離が一メートルほどまで縮まった瞬間、スタンガンを振り上げ、猿へと突きつけようした。
「ウプッ…」
猿は研究員の間合いに入り込み、彼の腹を齧り取った。研究員は血反吐を吐き、倒れた。
『…オオオ!!!!…オオオオ!!!』
猿は雄叫びを上げると、檻の中から残りの二匹の猿がのっしのっしと出てきた。奴らは一匹目の猿同様に口に収まりきらない牙を剥きだしにしている。聖堂はその光景をみて青ざめた。だが彼は絶望と落胆に押し負けることはなかった。それでもなお、動揺を隠せず、一目散に出入口へと向かった。彼を初めに襲ったのは死への恐怖であった。すかさず、研究員を倒した猿は聖堂を追う。
「ええい!どけ!!私が先に出るのだ!!どけ!!!」
走ってきた聖堂の体がエミに当たり、エミは尻もちをついてしまった。その拍子にエミとケンスケは逸れてしまった。聖堂は生徒たちを押しのけ、真っ先に講義室から退出してしまった。しかし、研究員を倒したあの猿は他の生徒の事など目もくれずに聖堂氏を追い駆けた。結局、講義室にはもう数人しか残っていない。
「エミ!大丈夫か!?」
尻もちをつき逃げ遅れたエミの許へかけつけたのはタケルであった。タケルはエミに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がる。エミはタケルへの安心感を覚えた。その間、彼らは未だ尚死と隣り合わせの状況に置かれている事を忘れていたのだ。
エミとタケルと背後には、不気味に笑う悪魔が二人、首を傾げていた。
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