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 両目を見開いて頭上を見上げる彼女の目に土が入る。

「痛いっ!」


 ザクリッ!


「嫌っ! 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁっ! 助けて! 助けて! 助けて! 助けて助けてぇぇぇぇぇぇ! いるのよ! 中にっ! 中にいるのよぉ!」

 叫ぶ彼女のその声は散々叫び続けたために枯れていて、あまりにも小さ過ぎた。

 だから、土を降らせている小さな影の主に届く事は無かった。

 穴の外では小さな影の主が額に汗を滲ませながら土の山にスコップを突き刺していた。

 スコップにこんもりと土を盛り、ソレを穴の中へ落とす。

 土は一瞬で穴に吸い込まれた。

 小さな影の主は、土をすくっては穴へ落とす、を繰り返す。

 ザクリッザクリッという不気味な音を奏でながら懸命にその作業を繰り返している。

 土の山は見るうちに形を崩していく。

 穴を掘るのには大した時間が掛かったというのに……。

 ザクリッザクリッという音に混じって、何か別の音が微かに響いていたけれど、小さな影の主はそれには気付かない。

 穴を埋める事に、とても集中していたから。

 スコップに乗った土に赤い色の小さな旗が隠れているのを見付けて、小さな影の主はニッコリ微笑んで、旗を摘んで眺めた。

 そして、ソレをスコップへ戻すと土と一緒に穴の中へ放り込む。

 旗はくるくる回りながら落ちていった。

 小さな影の主は空を見上げる。

 今夜は月が美しい。

 けれど、風がとても冷たい。

 小さな影の主は、作業を早く終わらせて家へ帰らねばと思った。

 きっとママが心配しているからと……。

 穴の中で、同じく空を……丸く空いた穴から見える空を見つめている彼女もきっと早く家へ帰りたいと思っているだろう。

 その為に、届かない声を精一杯出しながら、もがいている事だろう。

 もがく彼女の足に潰された缶からは昼間の夢が溢れ出している事だろう。

 ソレにどんなに美しい夢が詰っていたか、彼女は知らない。

 彼女は手を伸ばす。

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