第4話 活動記録③

またたく間に夏休み…が始まって2週間くらい。もう8月になってしまった。先輩とは全く会っていない。まあ会う理由がない訳だけど。

宿題も全部終わったし、やることがない。


「お兄ちゃん!昼飯作って!」


サイドポニーを揺らし僕に言う。僕の妹、さくらだ。目も髪も僕と同じ茶色。そして性格の一部以外共通点の無い可愛い妹だ。


「…あいよ」


仕事、待ってました。そうめん茹でるだけだけど。


「お兄ちゃん夏休み1回も家出てないよね」


「それはお前もだろ?桜」


「だって暑いし面倒だし」


「つくづく僕に似てるな」


「お兄ちゃんの妹だしね」


「そうだな。流石我が妹」


「ふふん、そうでしょう」


「あ、褒めてないからな」


「知ってるし。あ、そうだお兄ちゃん、友達呼んでいい?その子のお姉ちゃんも来るみたいだけど」


「ああ、構わんよ。僕は部屋にいるし」


「いや、お兄ちゃんに昼飯作ってもらうから」


「は?なんで」


僕は2年ぶりに妹にチョップした。


***


「お邪魔します…」


「お邪魔するぞ」


「……………せ、先輩?」


「あら知り合いだったの?お兄ちゃん」


「ああ、同じ部の先輩だよ」


突然の再開である。


「とりあえず上がって下さい。飯作っとくんで」


「お兄ちゃん私の部屋までご飯持ってきてね」


「……………あいよ」


数分後作った飯を持って妹の部屋に行く。ドアの前に立ち無言でドアを軽く蹴る。


「お、ありがと。はよ入って」


「…先輩。妹が無茶なこと言ってましたか?」


「いいや、恋愛相談をね」


「そうだよ!愛華里ちゃんのお姉さんがそういう部活してるって言うからきてもらったの!お兄ちゃんも同じだったとは思わなかったけど。そういうことならお兄ちゃんも手伝ってね」


「ああ。んで、話はどこまで進んだの?」


「どうしよっかってなってたとこ。私が好きな人さ、別の人が好きだから、本当どうしよって」


僕は不快になった。いつものただ前だけ見て走って行くような妹が迷っていたから、変に感じた。


「じゃあ諦めろ。悩むくらいなら諦めて忘れてしまえ」


僕は語気を強めて言う。するとガタン!と妹が机を叩き、叫んだ。


「諦めないもん!」


先輩の妹さんと我が妹から睨まれる。そんな中僕はふっと笑ってみせた。


「何だ。もう決まってんじゃんか」


「え…?」


「諦めないんだろ?相談なんてしなくとも決まってるじゃんか。お前はそれでいいんだ。好きなんだろ?なら、言えばいい。自分の気持ちを素直に。お前なら大丈夫だ。僕には難しいことだけど、お前なら、な」


「一丁前なこと言いやがって」


「悪いな」


「ふん…ありがと」


「おう。明日にでも、どっかに誘えばいい。プールとかさ」


「…そうする。ついて来てね」


「……あいよ」


そうして、今日。桜は告白をする。僕たちは当然、遠くから見ることしかできない。


「……あっつい…溶ける…」


「情けないぞお兄ちゃん」


「今年の夏休みで初めて外に出たんだぞって、それ露出多くないか?」


柄はシュシュと同じ青白のしましまのビキニ。だが僕が知ってるビキニより少ないように見える。


「いいのこれで!この魅力でイチコロにするんだからっ!」


と言ってセクシーポーズ(?)をしてきた。何て言えと。


「分かった。とりま頑張れ。世界一可愛いぞ」


「お兄ちゃんありがとう愛してる!あー、やっぱそうでもないかも!」


そう言って走って例の男の元へ行った。みんなはプールサイド走っちゃダメだからね。


***


「あ、今さりげなく妹にボディタッチしやがった」


「さっきからうるさいよ玲人君」


くっ、流石にずっと注意されずは無理か。


「お兄さんシスコンなんですね…」


「え、そうかな?」


僕はシスコンじゃないと思うのだが…まあいい。桜はいつ告白するのだろうか。

そんなことを考えながら流れるプールに体を委ねた流されるまま流される。

…あんなに楽しそうな妹も久しぶりに見た気がする。兄が至らないばかりに妹には苦労をかけているのかもな。


「あのさっ!」


客が減ってきたタイミングで聞こえてきた。緊張しているのだろう。声が震えていた気がする。


「ん?何?」


「…えっと、わ、私と付き合ってくれませんか」


桜らしく、ストレートに。だが、男のあの困り顔は、きっと。


「ごめん」


と、振るだろう。


「………そっかぁ、ごめんねっ!急にこんなこと言い出して」


無理して元気に見せているのが分かった。そしてまた無理をしてにかっと笑う。


「じゃあ、好きな人いるの?」


「え、あぁ、うん」


「お、誰?教えて!協力したげるからさ!」


ここまで聞いて、聞くのをやめた。

…後でアイスでも買ってやるか。


***


「お兄ちゃん」


自販機の前で何を飲もうか考えていると桜が着替え終わって出てきた。


「残念だったな」


「そうだねぇ、振られた…」


しゃくりを上げて泣き出す桜。僕が頭を撫でてやると、抱きついてきた。7年振りとかかな。ていうか、なんて言えば良いのだろう。


「よく、頑張ったな」


「………分かってた。分かってたけど、思った以上に辛い」


「今の桜を見れば分かる。よしよし」


「子供扱いするなーっ!」


と、口では言いながらも一層強く抱きついてくる。


「…アイスいるか?」


「…………2個買って」


「了解」


「あとおんぶ」


「……了解。…なあ」


僕はアイス売り場に向かいながら桜に声をかける。


「何さ」


「お前のその気持ちは『恋』だったか?『恋愛』だったか?」


「んーと…『恋』!だってさ、そっちの方が大人っぽいでしょ?」


と、子供っぽい無邪気な声でそう言った。そして軽く首を絞めるように腕を首に絡めてきた。押し付けられる胸は昔とは違って膨らーーー


「どお?おっぱい大きくなったでしょ?」


「ッ…そうだな。弾力が程よーー」


「えっち!」


「痛ッ!」


これは理不尽ではないか?うん違うね。だって大きさを聞かれたもんね。

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