第18話 決闘のゆくえ




「ではこれより、エドガーVSリュウの試合を始める!」


ノリノリすぎるだろ、あの馬鹿エイベルは。エイベルを見ると、その後ろには野次馬の男子達が面白そうにこちらを見てきていた。しかし当の本人、エイベルはそれに気付くはずもなく、ただ子供の様にはしゃいでいるだけだ。


「こういう青春っぽい決闘って一回、生で見てみたかったんだよなー。まぁ、お互い頑張れよ!」

「はぁ……」

--この教師は、脳筋馬鹿だったらしい。




「えーと、じゃあお互い構えて!」


その掛け声と同時に俺とエドガーは木の剣を構える。周りは野次馬ばかりで緊張感などない。しかし試合場の上では緊迫した空気が流れていた。当たり前だろう、お互いに剣を持つ男。狙うは相手の首、ただ一つ。子供の戯れごととは言え負けられないのだ。


「いけー!転入生なんてぶっ飛ばしちゃえー!」

「エドガー、頑張れーー!」

「負けるなエドガー!」


周りは、ほとんどエドガーを応援している

--おいおい、やはり俺への声援ゼロか。


「ケッケッケ、俺がこんな弱っちい奴に負けるわけないだろ〜!」


ニヤニヤと気持ちの悪い笑みでこちらを見るエドガー。本当に騎士の家で育てられたのか疑問に思うレベルでクズが丸見えだ。笑い方も込みで騎士ではなく、盗賊へと就職先を指導してやりたいものだ。きっと適任であろう。





「--始め!!」


エイベルの声で戦いの火ぶたが切って落とされる。周りの歓声は収まることを知らず、むしろどんどんと声援が増していった。(もちろん、俺への歓声はゼロに等しいが)


「オリャァァァァァァ!!!」


先に動いたのは、真っ直ぐにこちらへ向かって剣を振り上げるエドガーであった。スピードは遅いが確かに子供の中だったら強いのかもしれない。

迫り来るエドガーの剣を、こちらの剣の刃を使い、横に弾き飛ばした。驚いた顔をし、体制を後ろに崩すエドガー。

--簡易な鎧で、少しは痛みを緩和するだろう。しかしここは一つ、痛い目に合わせてやらねば。

一瞬空いた隙を狙い、手加減なく剣を振るう。胴体に剣の腹が当たるとメリメリメリ、と嫌な音を立てて、エドガーが試合場の壁に吹っ飛んでしまった。

しまった!、と思い壁を見てみると、情けない顔をし、涙と鼻水をダラダラと垂らしながら伸びている。どうやら死んではいないらしい。だが、その顔は先ほどのゲス顔を連想させない程、ぐちゃぐちゃになってしまっていた。まだ苛々とした感情は冷めないが、前世の様に不敬罪もなにもこの世界にはない。これ以上嬲るのは得策ではないだろう。

--それに、殺してしまったらエミリー達にも迷惑がかかるからな。


エドガーが生きている事にほっ、と安堵の息を漏らしていると、今まで阿保面で突っ立っていただけのエイベルがようやく動き出した。ハッとした様に慌ててエドガーを抱き起こしている。周りの野次馬達も心配そうにエドガーの側へ集まっていた。


どんな相手にも臆せず戦闘を仕掛ける事はまだ賞賛に値するが、ケンカを売る相手を間違えすぎだ。勇気は時に無謀へと変化する、という事を教えてやった俺に感謝してほしいものだ。


人がエドガーに群がる中、バレない様こっそりと試合場から階段を使い降りる。すると、ただ一人そこに居た先程の少年--アダムが 信じられない、と言った表情で近くに来た。


「信じられません。……まさかエドガーに一撃で勝ってしまうとは」

「……いや、そこまで強い奴じゃなかったな。確かに素早かったが、技術と力がまだまだだった」


あの年であのスピードだったら人間の中では、将来強い部類に入るだろう。そんな事を思いつつ、適当に言い訳をしているとエドガーの応急処置が終わったのか、エイベルが此方に猛然と走って来た。

怒られるのかと思い、殴られてもいい様に身構える。確かに少しやり過ぎたと思えなくもない。すると顔を真っ赤にしたエイベルが俺の肩にガシッ、と手を置いてきた。


「おいリュウ!お前酷いじゃないか!?」

「……ああ。少しやり過ぎた」


反省した様な顔をつくり、エイベルに謝る。説教なら早めに終わって欲しいのだが。


「こんなに剣術が上手いのに黙ってるなんて酷すぎるぞおおおおおお!!」


エイベルの大声が剣術場にこだました。辺りは静まり返り、アダムや野次馬どもがはきく口を開け、ポカーンと固まってしまった。


そう言えば忘れていたな--この男が至極真っ当の馬鹿だと言うことに。


余りの呆れ具合に頭を抱え、項垂れてしまう。先程手についた砂埃が顔に着いてしまったが、感情に気を取られ気にも留めなかった。


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