第9話 襲来


店の中は防音でもしていたのか悲鳴や爆発音が全く聞こえなかった。

「ここらはモンスターのレベルが低い地帯のはずだが……?」

見た目から察するに初級クラスのドラゴンだろう。あんなものうちの下級モンスターでも倒せる。しかし周りの兵士達や騎士は全く手が出せないみたいだ。


「さっさとドラゴンを倒さんか!!僕の身が危ないだろ!」

大きな声に視線を向けると、騎士達に怒りを喚き散らしている太った男がいた。

そしてその男の近くに……


「ん……?あれは……」

「リザード王、申し訳ございません!!ただいま討伐いたします!」

先ほど会った女騎士がボロボロになり、必死ドラゴンと戦いながら王に謝罪していた。どうやらあの女騎士が実質一人でドラゴンと戦っているのだろう。周りの兵士が弱すぎるしな。


「これで仕留めます!ここにいる王や民には、これ以上傷つけさせません!!!」

傷だらけで剣を構える女騎士。それに答える様に雄叫びをあげるドラゴン。


「グオオオオオオオオオオ!!!」

「『火炎剣』!!!」


バシュッ!、と斬れ味の良い音がした。ドラゴンから血が吹き上がり、周りの市民達から歓声が上がる。ドラゴンは地面に倒れた。

「……や、やっと倒……し…た?」

女騎士は立つのもやっとなのだろう。フラフラとした様子で動かなくなったドラゴンに近づく--すると


「グガアアアアアアア!」

「っ!!!まだ動けるなんて……」


突然ドラゴンが起き上がり女騎士に向かって大きな尻尾を打ち付けた。

「きゃああああ!!!」

もろに当たった女騎士は後ろの民家に吹っ飛んだ。白騎士様!、白騎士様が!と周りの市民達がパニックに陥ってしまう。悲鳴や怒号が混ざり合った負の大合唱が辺りから聞こえ始めた。


「さて……、本屋に行って帰るか」


しかし魔王は我関せずと言った感じで本屋に向かおうと歩を進める。

人間に同情する気持ちも、城下町を救おうという気持ちも無い。もとより魔王が人間を救うなんて笑い話も良いとこだ。この町が滅ぼされようと知ったことでは無いのだ。


「おい、誰かなんとかせぬか!!この僕が死んでしまうかもしれないのだぞ!」

リザード王?とか言う肥えた豚人間が地団駄を踏みながら喚いている。しかしそれに答えるべきである騎士や兵士は全員気絶、もしくは死んでいる様だ。


「どいつもこいつも使えない!!さっさとドラゴンを倒せ!」

「グルルルルルルル」

「ひいっ!」


喚いていたせいかドラゴンが豚人間を不快そうに見る。モンスターは前世では自分の仲間だった為、言葉を発しなくても感情がわかるのだ。

--どうやら殺す気らしいな


「グオオオオオオオオオオ!!」

「ひっ!こ、この僕を誰だと……!」

馬鹿だ、と魔王は思う。

魔物を治めていた魔王だからわかるが、魔物は金や地位などには興味を示さない。ゆういつ従わせるのは力でのみだ。その魔物に地位を示そうなど……


「無様な人間だな。さっさと死ぬがいい」

嘲笑にも似た笑みを浮かべ、小さく呟く魔王

--市民達はほとんど逃げてしまい、王もドラゴンに殺されるだろう。これで少しは静かに魔術本店を探せるな。

「だ、助げでぐれええええええ!!!」

泣きじゃくるリザード王に爪を振り下ろすドラゴン。


ガキンッ!

爪を弾いた音が悲鳴や怒号に混じって聞こえた。

「待ちなさいドラゴン!!王に手出しさせませんよ!」

「セ、セリーヌ!!?」

さっき吹っ飛ばされた女騎士がドラゴンの前で、リザード王をかばう様に剣で爪を受けていた。

「ぜ……絶対に、守ってみせます!!!」

ボロボロになりながら尚も立ち上がり、誰かを守る--大層な綺麗事に反吐が出そうだ。

「グオオオオオオオオオオ!!」

するとドラゴンの大きな口から光が漏れ出す。どうやら女騎士をリザード王ごと消すつもりらしい。女騎士は守ろうと必死だしリザード王は腰が抜けて動けないみたいだ。


--ははっ。終わったな人間

ふとリザード王の後ろに建ててある店が目に入った。そこにはデカデカと『本屋』と書いてある………………………………え?


「え?え?………………え?」


何度も何度も見るがそこに書いてある看板の文字は変わらない。


「も、もう駄目だああああああ!!!」


リザード王の叫び声で意識を元に戻す魔王

どうやら『炎の咆哮』をリザード王達にするつもりらしい。ドラゴンの口から炎が漏れ出す。








--魔術本が燃える……?


「させるか馬鹿たれええええ!!!『魔王砲』!!!」

ドラゴンに向かって闇の弾丸を一発撃つ。その弾丸が当たった瞬間、大きな爆発と共にドラゴンは跡形もなく消えてしまった。


「あ"ー、危なかったな。もう少しで店ごと燃えるところだった」

魔術の衝撃で気絶しているリザード王とポカーンとしている女騎士の横を素通りして本屋に近づく。どうやら魔術本は無事らしい。ホッと安堵の息を漏らす。


「あ、あなたは一体……?」

女騎士が大きな目をさらに大きくして聞いてくる。


「我は元魔王……じゃなくて遊び人(ニート)だ」


魔王がそういった瞬間、女騎士は倒れた。呼吸は出来ており、スースーと寝息が聞こえてくる。今までの戦いの疲れが後から来たのだろう。

「……さて、今日は大収穫だな」

そう呟くと魔王の姿は一瞬で消え、残されたのはボロボロの女騎士とリザード王だけだった。



ちなみに市民が安全を確認して城下町に戻って来た時、本屋にある全ての本が丸ごとなっていたそうな。いやー不思議なこともあるものだな(棒)





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