魔王(チート)で遊び人(ニート)のおじショタですが何か?

りゅう

第1話 魔王

突然だか、魔王という言葉をご存知だろうか?


RPGゲーム登場するキャラクターの一種で、

どんな魔物をも ひれ伏せさせる圧倒的な力の持ち主であり、同時に最後、勇者が倒すキャラクターだ。


では勇者が来ない長い間、彼は何をやっているのか?彼の1日を見てみよう。


朝 6時 起床

ジリリリリリ!!


「五月蝿いぞ! 『魔王砲』!!」

その言葉のすぐ後に、城全体を揺るがす振動と爆音が辺りを包む。

魔王城に風穴を開けたのは紛う事なきこの城の持ち主、魔王だ。銀色の髪に紫の瞳、鍛え上げられた肉体は高貴な身分であることを物語っている。


「おい、セバス!! セバスはおるか!」


硝煙が立ち昇る部屋の中、魔王は不機嫌そうに叫ぶと、すぐ近くに執事の格好をしたメガネの半魔が現れた。一見、白髪の初老にも見えるが魔王の補佐に匹敵するほどの知恵、武力を持っている男。それがセバスチャンだ。しかし魔王は、さっさとくたばり、墓の中へでも隠居して欲しいだけの老いぼれととしか思っていない。


「魔王様……。毎朝起きる時に魔王砲を発動するのはお止めください。従者の者達が、心臓発作で死んでしまいます」


セバスは困った様に、メガネを上げる。そして額にある無数の皺をさらに寄せ、苦悶の表情を浮かべた。

だがそんなセバスチャンを視界にすら入れる事をしないまま、魔王は不機嫌そうに口を開く。


「そんな事はどうでも良い。今日の予定を申せ」

「はい、仰せのままに。今日はダンジョンボス達との会議、ドラゴンや龍などの上層モンスター達との会食が午前中にあり、午後は……」


「だあああああ!!! 鬼畜すぎるぞ、セバスよ!」


ベットにうずくまり、悲鳴を上げる魔王。この姿を勇者や人間共に見られたらドン引きされる事、間違いなしだ。

しかし、やりたくないものはしたく無いのだから仕方ないだろう。そこに人種も職種も関係ない。


「魔王でしたらこのぐらい当然です。さあ、お着替えや朝食の準備はできております。どうぞ、こちらへ」

「っつ……」


--ここまで見て大体の事を察すると思うが……あえて、言わしてもらおう。

魔王は超多忙なのだ!!!


勇者が仲間と出会いのんびりと経験値を稼いでいる時、魔王はモンスターの統率や村の襲撃、勇者を襲うモンスター選びなど、やる事は勇者の100倍はあるだろう。あやつらが酒場で夜を楽しんでいる時、こちらは徹夜で書類を仕上げなかればならない。仲間と仲良しごっこで戯れている時に、こちらは全モンスターを統率しなければならない。

それ程までに魔王は忙しいのだ


勇者が目の前に現れ自分を退治するその日まで、この無限に繰り返される仕事は終わらない。


「おい、セバス。今の勇者の現状を教えろ」


風呂から出た魔王は火魔法で無理やり身体の水気を蒸発させ、用意してある服に着替える。

セバスは黒のバスローブを受け取ると、苦々しい表情を浮かべながら答えた。


「はい。ただいまの勇者のレベルは10です。そして昨日、やっと騎士を仲間にした様です」


セバスの報告に顔をしかめる魔王。まるで口の中に泥でも投げ入れられたような気分である。

今の勇者は気分で行動する知能が猿以下の馬鹿だ。

やれ酒場に行くだの、やれ老人を助けるだの、経験値の足しにならないことばかり積極的にやる。

なぜ、そこまでレベルを上げない?少し考えれば分かるだろう。目の前の荷物が重くて歩けない老人より、レベルを上げ魔王を倒した方が圧倒的にプラスだと。

あまりに無能な勇者。考えるだけで脱力感に襲われ、無意識に頭を抱える。


「……レベルが低すぎる。もう少し経験値が多めのモンスターを数匹向かわせろ」

「はっ!」


セバスが王室から出て行き静寂が流れる。誰もいないだだっ広い広間で黙々と朝食を食べる。

すると良すぎる耳に、ボソボソと話し声が聞こえてきた。


--ふむ、この音量だと…大体地下10階くらいのメイド達の話か?


盗み聞きをしたい訳ではないが、耳を塞いでも聞こえてくるので仕方ない。生まれつきの察知能力の高さ故、もう慣れてしまったが。

※ちなみに王室は100階である


『ねぇねぇ、聞いたぁー?勇者ってレベルがすっごい低いんだってー』

『えー、マジで!?魔王様を倒しにくるのは何千年後なんだろーね』


その話し声を聞いて、口に入れたばかりの料理を八つ当たりの様に牙で噛み砕く。口の中にあった大きな獣の骨がバキリと鈍い音を奏でた。


ゲームなどではレベルアップするのにそう時間はかからないがRPG世界では違う。レベルアップするのに少なくとも半年、長くて一年の時間を有するのだ。

過去の魔王の中ではあまりの長さに自分自身に超弱体化の魔法をかけて、レベル30の勇者に倒されたという者もいる程だと言う。


「……くだらん」


何に対して、誰に対してかわからない言葉を誰もいない部屋で放つ魔王。その声はあまりにも無情で、切なく、諦めの強い言葉だった。しかしその声はセバスの扉を叩く音で遮られる。


「外出のお支度が整いました。………どうかなさいましたか?」

「……いいや、なんでもない」


こうして今日も魔王の激務は幕を上げる。

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