第7話 女神ミレイアとセシリア

  冒険に出るにしても装備が何一つ無い。服を一式来るときに貰った

 だけで。今回は日本での普段着を持ってきてはいるものの冒険する格好

 ではないのは確かだ。


  なので、井岡に武器屋、防具屋、服屋、雑貨屋等に連れて貰った。

 さすがに一式購入すると金貨50枚ほど無くなったが。生活用品と比べ

 武器防具類はそれだけ高い。ただ、ポーション等の薬剤は比較的安い。


  最初日本で売れば金になるかもしれないと思ったが、ポーションは

 こちら側の世界でしか効果が無いとのこと。セシリアの能力は神の奇跡

 なので効果は永続し、かつ日本でも制限はあるものの使えるのだそうだ。


  セシリアが魔王を倒して欲しいと俺達に頼むのも、力の根源がアレル

 カンティア人の信仰や祈りだからだ。魔王が現れ、信仰心がだだ下がり

 になってセシリアは瞬く間に力を失った。


  全盛期の半分程度に。


  元々セシリアは戦闘タイプの神ではないので、戦士を魔王討伐に送り

 込んだものの、成果が一向にあがらない。その間魔王の勢力圏は日に

 日に拡大する一方だ。


「とりあえず、一通りは揃ったか」

「これならその辺の雑魚とはそこそこ戦えると思いますね~」


  部長は初期職の内ナイトを選択していた。井岡はレベル50で既に

 上級職のアークウィザードだ。レベル差があると経験値が入らない

 仕組みで井岡を連れて行くわけにはいかない。


  はずだったのだが・・・。どうやらレベル差があるとレベルシンク

 ロ機能というものが存在しているらしくそれを使えば普通にレベル上

 げができるようになる。井岡的にはだるいだけなので嫌がったが。 


  最初は、街周辺に居るゴブリンどもを倒していたのだが、全くもって

 効率が悪い。ナイトはタンク勇者はその中間でタンクとアタッカーを

 両立できるハイブリット職だ。どちらかというとアタッカー寄りの。


  なので、必要経験値が戦士やウィザードと違い、多く必要になる。

 部長は勇猛果敢にも強そうな奴に突っ込むものだから、死にそうになり

 逃げるの繰り返しになった。


「やっぱり・・・本職のヒーラーが必要っすよ・・・」

「むぅ・・・ついに薬剤も尽きたか・・・」

「そら・・・効率重視でつよいのに突っ込めばそうなりますわ」


  雑魚ゴブリンを纏めるすこし知能の高いホブゴブリンと言う奴が

 いて、それを部長が倒そうとするのだがホブゴブリンは必ず手下のゴ

 ブリンとセットだ。単独では動かない。


  なので無理に倒そうとすれば囲まれる。そして命からがら逃げる

 を何度も繰り返し、それなりに持っていたポーションも尽きたという

 訳だ。序盤なのでナイトと勇者のヒールなんてすぐ尽きる。


「本職のヒーラーか・・・」

「とは言ってもヒーラーは貴重っすからね・・・。うちらはミックが

 ヒーラー兼リーダーでしたから冒険ができましたが、さすがにミック

 を連れて行くのもどうかと」


「そうだな・・・。とりあえず私が何とかしよう」


  翌日、部長と一緒に辿り着いたのはあのバカ女の住む屋敷だ。

 最初は神殿だったのを自分が住む為に豪邸に改造させたらしい。

 信者の寄付金で。


「は? 何で私が冒険にでなきゃいけないのよ?」

「先日、街のよく当たるという占い師に占って貰ったところ、セシリア様

 と我々が魔王を倒すという未来予知がありまして。何しろ勇者がいます。

 信じていいかと」


  やっぱりな! こいつはこう言う女だよ! 日本で甲斐甲斐しく世

 話してくれたのも全部俺をここに連れてくるため。わかりやすすぎ。

 それにしても、良いところに住んでやがるなぁ・・・。


「しょうがない、明日からここを本拠点にするぞ」

「ちょ! 何勝手に決めてるの!?」

「お前、人を連れてきて、来たらはいさいならはないだろう、最後まで

 ちゃんとサポートしろよ!」

  

「それとどうしてもぐずるようならその占い師がセシリア様を連れて

 来るようにと」

「何よ! 占い師風情が私とやろうっての!」


  おいおい、このバカ・・・その占い師が上司とかだったらどうする

 んだ? 充分、ありうるな。面白い! 連れて行こう!


  部長に連れられ俺達はその占い師が店をやっていると言われる場所

 へ向かうことにした。 


「ようこそ、サリアの館へ」


  めちゃくちゃセシリアはサリアを睨み付けていた。


「占い師ごときが女神である私の運命を覗きみてたそうね」

「覗き見たなどとんでもない。あくまで私が提示したのは将来起こるで

 あろう道の一部分でございます。当たることもあれば当たらないことも

 当然ございます」


「あなた・・・未来視を使ったのね。それは神々でも一部にしか使えない」

「女神セシリア、メサイア様からの勅令です。あなたも彼らと共に行動

 しなさい。拒否権はありません」


  すると、女神セシリアの顔はみるみる青ざめていく。何かを察した

 ようだ。


「ちょっと! あなた新任の女神? 嘘! 嘘でしょ! 私がここの

 担当を外されたの!?」

「落ち着きなさい女神セシリア」


  そう言うと占い師サリアは深く被っていたフードを外しその神々しい

 美貌が露わなとなる。


「あなたは・・・女神ミレイア・・・どうしてここに」

「どうしてもこうしても・・・あなたの普段の行いに心当たりはありま

 せんか?」

「う・・・ぐ・・・」


  おお、これは面白いことになってきた! バーカ! 怒られてやんの!


「あなたがここの担当の女神な事には違いありません、あくまで私は

 あなた方のサポートの立場です。それに私をここに寄越したのはメ

 サイア様の親心なのですよ?」


  納得いかない顔をしているセシリア。どうやら今までやってきた

 傍若無人な日々の行動を咎められている模様。そらそうだ、上の神様

 ができた方で良かったわぁ・・・。


「ミレイア、あなたエルフォリアはどうするの?」

「だからサポートよ。エルフォリアは勇者が魔王を討伐してくれたから

 後は人々を見守るだけで良いの」

「その勇者貸して!」


  おお、それは願ったり叶ったりだ。そうすれば俺達も無理に魔王

 討伐なんぞに出かけなくてもいい。ちょっと複雑だけどな!


「ダメよ、せっかく精も根も使い果たしてどうにか魔王を倒した人間に

 また別の世界の魔王を倒しなさいなんて言えない。それにパーティの

 女の子と近日中に結婚する予定だから野暮よ」


「うぐぐぐ・・・」

「とりあえず、これを。未来視をします。但しこれはあくまで未来の可

 能性の一部分に過ぎません。未来の可能性は無限に近いほど広がって

 ますので」


  そう言って女神ミレイアは直で俺達の脳内に将来起こりうるであろう

 未来を見せてくれた。


「うふふ、あなたー起きて~」

「おい、お前・・・俺が大事にとってあったプッチンプリンはどこやった」

「うふふ、言わなくても分かるでしょ♪」


「そうか・・・じゃあ、俺もお前が大事に取ってあった高級ビーフ

 ジャーキー食った」

「ちょっと! 何やってくれてるの! プッチンプリンの10倍位の価

 値の差があるじゃない!」


  朝っぱらから超下らないことで喧嘩しているバカップルの姿が映し

 出されている。その二人とは・・・俺とセシリアだ・・・。ありえねぇ。


「ちょ! 先輩! 何で自分を捨てて女神セシリアと結婚してるんで

 すか! 納得いかないっす!」


  そう言えば・・・子供の姿とかはないのか? バカの井岡は無視して

 その映像を見続ける。


「まーちゃん、またパパとママ喧嘩してるぅ」

「またかよ・・・まーちゃんママがご飯用意したげるから待ってて」


 井岡もちゃっかりいました!


「とりあえず、この辺りで良いでしょう。あなた方は将来結ばれる可能性

 があります。魔王を倒して」

「だからメサイア様はこの猛獣たちと旅に出ろって言うの!?」


「そもそも、あなたがちゃんとお勤めを果たしていればこんなことには

 ならなかったはずよ。セシリア」

「だってぇ・・・」


「話の途中で申し訳ないんですが、あなたは一体・・・」

「セシリアの同時期に女神になった女神ミレイアです。これからはあなた

 方勇者一行のサポート役としてここに滞在する予定よ」


「それって、本来セシリアの役目なんじゃ・・・」

「まぁ・・・そうなんだけど、彼女じゃまともなサポート期待できない

 しね。能力からしてヒーラーと少々の奇跡を行使できる程度」


「あなたのサポートって?」

「基本的には未来視とメサイア様からの言付けを伝えることくらいかしら

 貴方達がダメな方向にいかないように誘導する役割ね」


  要約すると真面目に働けって事か・・・。どこもかしこも同じやの

 う・・・。


「それとこれを付けなさい」

「嫌な予感がするわ・・・」


「ダメよ、あなたが冒険中下手に女神の力を行使しないようリミッター

 を掛けるように言われてるんだから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「嫌だって言ったら?」

「人間に降格ね」


「そんなのだめよ! この猛獣たちを始め色々な男の性欲のはけ口に

 されるわ! 元女神さんよ、役に立たないなら、せめてこっち位役に

 立ってくれよ! おらぁ! って!」

「大丈夫よ、そこにあなたの未来の旦那様がいるじゃない」


「そいつが一番危険なの!? 私を見るなり開口一番でやらせろって

 言い出すような変態なんだから!?」


  勝手に俺の部屋にあがりこむような、キチガイに言われたくない!


「大丈夫よ。何かあったら封印解除されるようになってるから。ちゃんと

 メサイア様はみてるわ」

「・・・もしかして全部みてた?」


「当たり前じゃない・・・」


  渋々手を出し『封印の腕輪』を付ける女神セシリア。これから先、

 何をされるか分からない恐怖からおさらばだな。


  こうして、何とか無事貴重なヒーラーを確保できたのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る