社畜な俺の異世界ハーレム計画!

四条 村正

第1話 頭のおかしい女

  陳腐な表現かも知れないが、運命だった。

 今なら間違いなくそう言える。


  さらさらで艶やかな、やや薄めの青みがかったプラチナブロンド。

 それでいて色ははっきりとしていて、編み込みのハーフアップ。

 ナチュラルにウェーブした髪が、彼女の魅力を一層際立てる。


  上下のスーツはしっかりフィットしていて、女性らしい曲線を

 浮かび上がらせている。


  この瞬間、俺は間違いなく彼女に視線を奪われたのだった。

 そう、俺の全てがここから始まったんだ。


  

  いつもと変わらない毎朝の通勤時間は、

 毎度毎度、俺を憂鬱にする。

 

  御年40歳になろうかと言うのに年収は250万。

 

  氷河期世代と言われる大就職難時代。

 ブラック企業を転々と渡り歩き、何とかしがみつき生きている。


  何度駅のホームから足を踏み出し飛び降りようかと考えたことか。

 こんな夢も希望も未来も無い生活が繰り返されるのであれば、

 いっそのこと・・・。


  うだうだ考えながらも結局は、

 いつものように刻々と迫る会社との距離。

 

  行き交う人々。


  若い頃は夢や希望もあったはずなのにな。

 ただ、今日はいつもとは違い、外国人美女がたまたま視線に入った。


  若い頃は金髪ねーちゃんとやりてー等と考えたものだが、

 最終的には日本人が最高だよね、に落ち着いてしまった。


  歳と共に嗜好は変化していくのだ。

 それでも、その彼女は本当に美女だった。


  俺の視線を釘付けにするほどに。


  フォーマルなスーツとスカート姿であちらこちらを見回している。

 そんなに日本が珍しいのかな?

  

  ふふ・・・お上りさんっぽくて初々しいな。


「そこのうらぶれたおにいさん!」


 注)うらぶれた=衰えた、終わった、

   薄汚れた、呆けている等多数の意味がある


  俺は一瞬耳を疑った。


  いきなりこの女とんでもないこと言い出しよったぞ!

 その場周辺の空気が凍り付く。


  一応言葉を選んでいるようにも思える。

 

  しかし、初対面の人間に向かって、

 そこの小汚いおっさん! と言っているのだ。


  非常に失礼な女だ。

 

  心当たりがありそうな面子が彼女を凝視する。

 誰のことを言っているんだろうかと?


  彼女はそんな刺すような眼差しを物ともせず、

 その視線はまっすぐ俺をみていた。

  

  俺・・・おにいさんって言われるような歳じゃないよ? 


  まずい! 視線が合った!

 俺はダッシュで逃げようとしたが回り込まれてしまった!


  満面の笑みでにっこり微笑む彼女。

 

  どうして俺やねん、他にも人がいるだろう、

 などと思いつつ一応要件を聞いてみることにした。


「一体何のよう?」


「私は遠い遠い国からやってきました。

 あなたのような方を探していたんです。

 私のことを助けて頂けませんか?」


「助ける?何を?」


「世界を救って欲しいのです」

「さようなら!」

「ああっ! 待って!」


  俺はこれ以上無い位に全力疾走した。

 

  40歳にもなって全力疾走した。

 

  当然、すぐに息は上がり、足も重くなり、

 次第に速度も落ち、結局息を整えながらやや早足で歩き、

 後ろを振り向き追っ手が無いかを確認する。


  どうやらもう、追って来ては無いらしい。


  その日余分に汗を掻く羽目になってしまったので、

 コンビニに寄ってスポーツドリンクを買い、飲み干す。

 ついでに朝食のおにぎりとタバコと缶コーヒーも買うのは忘れない。

 

  あれは、一体何だったんだろうか・・・。


  いつものごとくブラック企業戦士として業務に励む俺。

 今日こんな妙なことがあった後だ。

  

  集中できず、ネットサーフィンに勤しみどんどん業務が遅れ、

 終電近くまで残業するのだった。


  コンビニで夕食というか晩ご飯を買い込み、

 電車に揺られながら帰路に着く俺。

  

  今日朝無駄にダッシュさせられたせいで余分に疲れた。

 さすがにこんな夜分ではあの頭のおかしい女には出くわす事はなかったが。


  駅を降り、仕事で精も根も尽き果てた重い足取りで、

 寝床のアパートへ向かう。

  辺りは当然のように真っ暗闇で閑散としている。

 生活音が多少聞こえるものの静かなもんだな。


  たまに、犬が吠えて居たり、酔っ払いが叫んでいたり、外国人同士が

 殺し合いをしていたりとなかなかエキサイトな夜もあるが所詮は他人事。

 

  この騒がしさもまた、都会生活の醍醐味のようなものなのだろうか。

 

  たまに実家が恋しくなる。


  しかし帰ったところでまともな就職口も無い上この年齢だ。

 帰るに帰れないのが実情。


  コンビニバイトとかもう無理。


  若い頃は彼女ができたり、キャバクラでねーちゃんに騙されたり、

 ネトゲにはまったり、オフ会に参加したりと色々あったもんだが。

 

  もはや40にもなると特に何があるというわけでも無い。


  同級生は半数以上が結婚、もしくは離婚を経験していて俺と同じよう

 に生涯未婚者も半数程度は残っている。


  幾ら同級生とは言え40越えたババアと結婚するような気にはなれんな。

 そもそも相手にされないが。


  うだうだ考えている内にアパートの我が家へと辿り着く。

 ただ、何か様子が変だ。空き巣か? 

  電気は消して出社したはずなのに、明かりがついている。

 おいおい、お巡りさん呼ぶ案件か? 

  

  警戒し、ドアノブを回し、少しだけ開けてみる。

 鍵は掛かってない。


  嫌な予感がする。


  まさか・・・まさかだとは思うが・・・。

 いや、そんな馬鹿な。今日初めて会ったばかりだぞ。


  しかし、かなり頭が。いやそもそも、何でここが分かった? 

 分かるはずが無い。


  俺は覚悟を決め自室へと踏み込む。


「おかえりなさい、あなた♪」

「やっぱ、おめーかよ!」


  何なんだこの女は・・・。いきなりあなたとか頭おかしい。

 いや、実際頭がおかしいんだが。


  俺は様々な疑問が浮かびつつも彼女をまじまじと見つめていた。

 頭はおかしいが、美人は美人だ。

  そして、独身の男の部屋に勝手に侵入したと言う事は、

 むふふな事をされても文句が言えない。

 

  いや待て、こんな頭がおかしい女だ。美人局の可能性も考慮しないと。

  

「どうしたの?上がらないの」

「どうしたのじゃねーよ、こっちが何でいるか聞きたい。

 はっきり言って怖すぎる。警察呼ぶぞ?」


「そりゃ、あなたじゃないと困るからよ」

「じゃあ、率直に言う。やらせろ」


「頭おかしいんじゃ無いですか? あなた」

「勝手に人の家にあがりこんでるお前が言うな!」


「細かいことは気にしない」

「気にするわ!」


「話にならない、出てけ」

「やーん!」


「とりあえず、お前は何がしたいんだ!?」

「あなたを勇者として異世界から勧誘しに来ました~♪」


「もっと、優秀な奴がいるだろう?」

「ああ、そう言う人はまず試してみたけど、ダメだったわ」


「どうして?」

「優秀すぎて、何でもできちゃうから、結局自分の命を投げ売ってまで

 魔王を倒そうとしないから。何だかんだ言って生活できちゃうので」


「イケメンも連れて行ったけど、アレもダメね。女の子を孕ませちゃって

 結局魔王討伐どころじゃなくなっちゃってる」


「で、お前は一体何者なんだ?」

「神の使いです」

「どこの神様の使い?」


「異世界アレルカンティアの女神セシリア様の使いです」

「お前の名前は?」


「・・・・ラピス!」

「おい、ちょっと待て、何だ今の間は、今考えたろ! 本当のこと言え!」


「とにかく、あなたは一億人に一人の確率で現れる勇者適正がある逸材

 なの、だから何としてでも連れて帰りたいの」

「じゃあやらせろ」


「頭おかしいですね。あなた」

「お前に言われたくないわ!」


「それに、あなた、もう生きてもしょうが無いとか、会社行きたくないとか

 いっそ死のうかとか思っちゃってるでしょう?」

「自分の生き死にくらい自分で決めるわ!」


「だったら、いいじゃない。行きましょう?」

「死ぬような危険な場所へ誰が好き好んで行くか!」


「分かったわ、もしあなたが魔王を倒す事ができたら、私のこと好きに

 さ・せ・て・あ・げ・る」

「女一人のために命を捨てれるか!」


「むう・・・ならどうやったら納得してくれるのよ~」

「今ここでやらせろ!」

「それはダメ!」


「じゃあ交渉決裂だな。そして帰れ」

「なによー今日くらい泊めてよ~」

「レイプされても文句言わないなら考えても良いが」


「うわ、最悪何この人!」

「勝手に人ん家に上がり込んでるお前に言われたくは無い!」


「もう、分かった。分かったわよ!好きにすれば良いわ!」


  おおう、言ってみるもんだな。


  べ、別に女に飢えてるわけじゃないんだからね! 

 俺はラピスに手を触れようとした。


  しかし、彼女は強く目を閉じ、小刻みに震えている。

 迂闊にも罪悪感を感じてしまう。


  男女が抱き合うのってのはこんなのじゃない。

 ただ、俺は自己満足に浸りたいだけのクズ野郎だ。

  彼女をオナホールにして満足できるわけがない。

 セックスってのはそんなもんじゃないんだ。


  バツが悪くなった俺は結局何もしなかった。


「童貞だから怖じ気づいた?」

「ちげーよ、誰が童貞だ。ちゃうわ! ぷるぷる震えてる女を抱けるかよ!」

「ふふ~ん、結構良いところあるじゃぁ~ん」


「その代わり、お前は床で寝ろ!」

「はぁ!? 普通男が床でしょ!」

「勝手に乗り込んできて文句言うな! 嫌なら出てけ!」


「むー。分かったわよ・・・。ただ行くって言うまでずっとここに居座る

 からね」

「だったら、いかねーから一生ここに居る羽目になるな」


「・・・。あなたが行きたくなるように色々と考えるわよ」

「何勝手にベッドに潜り込んでんだよ」

「サービスよ、サービス。人肌恋しいでしょ?」


「サービスなら手○キとかフェ○チオの方が嬉しいんだけど」

「しないわよ! 勝手にしこってろ!」


 今日この日から、この頭のおかしい女との共同生活が暫く続くこととなる。

そういえば、飯食うの忘れてた。


  もう面倒だし、明日で良いか・・・。


  おやすみ 

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