ants, no thank you - 2

 政府は蟻を絶滅させるため、生態系への影響を無視した様々な政策を打ち出した。

 その内の一つに、思想教育がある。十年前の人々にも解りやすい例を挙げると、『蟻とキリギリス』の絵本で、蟻が悪役になったりだ。真冬に助けを求めに来たキリギリスを、蟻達が喜んで迎え入れ、生きたまま手足をむしって食べてしまうという展開。部屋の奥には原型を残したまま肉団子にされたキリギリスの山が……って、あれを書いた絵本作家は、蟻に親でも殺されたんだろうか。


「蟻だー!!」


 と叫ぶ子供の声に視線を少し上げると、公園の砂場で遊ぶ彼らの姿が見えた。


「アーリアリアリアリアリアリ!」

「くそっ、邪悪な蟻共め! アリコロリを食らえ!」

「アーリー!」


 何のことはない、単なる蟻ゴッコだ。こういった公園は四方を虫除けで囲ってあるし、役所が定期的に駆除に回っている。蟻一匹忍び込む隙もなかった。

 私は再び足元に視線を戻し、歩みを進める。


 梅雨も開けて、暑くなりつつある季節。これから蟻はまた増えてゆく。


 しばらく行くと、少し先に蟻の行列があった。

 パチリ、と火薬が弾ける音。踵丈のロングスカートは蟻の銃弾を軽く受け止め、地面に落とす。スカートの下に入り込まれたら酷い目に合うから、私はそれを、見てから、別の道へ、避けた。

 飛んでくる銃弾をかわせる筈はないけれど、道を変えるくらいなら可能だ。足元さえ見ていれば。


「蟻の通報ってこちらで良かったでしょうか。はい、はい、場所は──」


 私は携帯から市役所に通報を行い、そのまま少し離れた場所で待つことにした。しばらくすれば、熱湯の入った容器を抱えた担当者が、巣穴の駆除に来てくれる。通報のお礼に、缶ジュースを奢ってもらえるんだ。

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