魔女が死なない日(異世界ファンタジー)

魔女が死なない日 - 1

 魔女狩りというのは便利な商売で、材料まじょが尽きればその辺から拾ってきた人間を使っても良い、ということになっている。

 鼻につく貴族や、厄介な商売敵、気に食わない隣人、目についた村娘。貴賤、来歴、国籍、老若男女問わず誰でも良い。

 特に明文化はされていないのだけれど、実情としてそのようになっている。何せ、他国では王位継承権を持つ姫君が魔女だと暴かれ、大衆の前でなぶり殺しにされたとも聞く。密告者にも相応の褒美が出るので、密告専門業者も過去には存在した。内部告発で崩壊したけれど。


 密告、密告で最後に残った悪辣な一家を「村を滅ぼした悪辣な魔女」として教会直々に討伐し、誰もいなくなった村があった。その際、それまでに狩られた魔女達が、憐れな被害者として死後に魔女認定が取り下げられたか、と言えば、特にそういったこともない。魔女裁判の判決は覆らない。神は誤らないので、教会も謝らない。

 かくして、国民の半分が狩られた国があった。勿論、魔女の巣窟として他国の連合軍と教会に滅ぼされた。


 魔女狩りの厄介な点は、魔女の定義が人によって異なる点、つまり人それぞれ物事の好みが異なるという程度の意味合いだけれど、そういった点だ。昨日密告した信徒が、別の信徒に密告される。

 見目の良い村娘を引っ立てて「人を惑わせる魔女」認定をし、凌辱して殺した神官がいた。その神官は「魔女に邪な欲を抱く魔女」として、同僚に惨殺された。その神官は「残虐な魔女」として殺され、彼を殺した神官は「魔女に手心を加えた魔女」として殺され、最終的には教会ごと焼き払われた。


「魔女には良い時代だわ」


 そう目を細めて微笑んだのは、{任意の悪い魔女}と呼ばれる魔女だ。

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