校庭に、猿。

 何の工事をしていたのか忘れたけれど、校舎の工事が終わり、足場は解体された。

 布で遮られていた季節感が、この教室にも訪れた。


 我々生徒は教室に住んでいるわけではないので、季節の変遷くらいは勿論把握している。

 それでも、灰色の窓外に慣れた身にとっては、苛烈なほど鮮やかな蒼空、木々の葉というのは、妙に不気味な光景に映った。


「見て。校庭に、猿」


 淀子ていこの差す方をみれば、成る程、確かに猿が迷い込んでいる。

 そういえば、ここは山の近い片田舎であったな、と思い出した。別に、忘れていたわけではないのだけれど。


 窓外を見る淀子の横顔を見る。

 蛍光灯の青白い光ではなく、黄色く激しい太陽光が、その顔を明々と照らす。


 数ヶ月ぶりに妙に淀子が綺麗に見えて、勢い余って、愛の告白をしてしまった。

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