二章 影の予兆

第3話 影の予兆(1)


 Gilthero Lanbasch 1994年7月31日 8時22分59秒 孤星天 森林地帯


 俺の生まれは仙星天せんせいてんだ。魔導の名家ランバーシュ家の跡取り息子として育てられる筈だった。


 だが、俺は魔法が嫌いだった。ガキの頃から大嫌いだった。そして魔法を使う奴が嫌いだった。神にしか許されない力を我が物顔でひけらかす連中が許せなかった。そんな俺にとって家は窮屈で、年中拷問にかけられているような気にさせる場所でしかなかった。来る日も来る日も魔法を学ばされ、周りの奴らの期待に応えているようなフリをする。主義的にも精神衛生的にも、俺が家を出ていくことは最早必然だった。父も母も、そして妹さえも捨てて――――

 

 それからの俺にとって何より重要だったのは、如何にして魔術師たちを殺すかだった。


 当時、政治家の汚職と麻薬事件による政治不信に悩まされていた連合政府は、麻薬市場壊滅を名目としてマフィアとの繋がりが公にされたばかりの孤星天暫定政権打倒を掲げ、国民と政府の共通の敵を作ることによって、自分たちの問題から目を逸らさせた。


 兵器密売と麻薬で成り立っていた孤星天暫定政権はこれに対抗すべく、ゲリラと傭兵をかき集めた義勇軍『孤児部隊』を組織。魔術師を主力する星天騎士団と合流した連合正規軍と戦えると知った俺も傭兵としてそこに加わった。孤児部隊は対魔導兵器の取り扱いとゲリラ戦を徹底的にたたき込まれたが、連合の新型航空兵器に制空権を奪われた途端に次々と絨毯爆撃を行われ、殆どが壊滅した。


 続けて地上に派兵された正規軍の機甲部隊の追撃によって味方がほぼ全滅。大した戦果を挙げていない俺は、敗北の兆候よりも、お目当ての魔術師がいつまで経っても顔を見せないことに苛立ちと不安を覚えながら、森林の拠点で個人的な戦いの準備をひたすらに進めていた。このまま一人も魔術師を葬ることなく敗北を喫してはならないと、孤独な決意を固めながら……。


 事態が動いたのはそんな時だ。衰弱死した味方の端末が、偶然にも敵の通信を傍受した。新型魔導兵器を装備した騎士団の機動部隊を乗せた小型宇宙船の情報だ。ゲリラ相手にはどう考えてもオーバーキル。そんな部隊が地上に降り立っていると知っただけで俺は口角が自然につり上がり、僅かに絶頂を覚えた。ついに神に代わって天罰を下す時が来たのだと本気になって考えていた。


 だがあの時、あの戦場で起こった出逢いが、俺の人生を大きく揺るがすことになるだなんて、予想できるはずもなかった。

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