パネル 4〜Pet Salon&Hotel LittleHand

第15話 ペットサロン

誤魔化してここで帰るのも怪しいし、かと言って40過ぎのおっさんがアイスミントティーの入れ方を教えて欲しいというのも怪しすぎる気がする。


たしかに、café Sun Flowerで飲むアイスミントティーは美味くて気に入っている。

たが普段の俺は、ビールかコーヒーかペットボトルのお茶か水道水、そのくらいしか飲まない。紅茶やハーブティーなと入れたことがないし、自分で入れようとも思わない。コーヒーですら缶コーヒーかペットボトルかインスタントだ。ドリップしたものなんか外で飲むものだと思っているし、正直味の差なんてわからない。

アイスミントティーは、café Sun Flowerで飲むから美味いのだと思っている。


それがどういうわけか、今、俺はこの女にアイスミントティーの入れ方、蒸らし方、氷の入れ方を教わっている。

この女の名前は堀内明子といった。堀内明子は楽しそうに、このアイスミントティーの入れ方をレクチャーしてくれているが、元々アイスミントティーの入れ方に興味がないので全然頭に入ってこない。


ここは彼女が働くペットサロン。さっきの娘の父親がオーナーで浅野真一、母親の方がトリマーで浅野楓といった。娘は里穂というらしく、中学生だった。堀内明子の息子も同級生で慶太といい、2人はこのペットサロンに着くと、2人で出掛けていった。男女が2人で出掛けただけで付き合っているのかもしれない、と勘ぐるのはおっさんになった証拠かもしれない。


このペットサロンはペットホテルと兼業していた。長期出張や旅行などでペットを連れて行けないときに預けて、その流れで毛足をカットして綺麗にしてもらう顧客が多いのだそうだ。

このペットサロンでもお得意様の飼い主にサービスで出すアイスミントティーが好評なのだそうだ。


このペットサロンのスタッフ控え室で、アイスミントティーの入れ方を教えてもらっている。

もしこの女が、なんらかの犯罪組織の一員であったら、口止めに消すため、アイスミントティーの入れ方を教えるという名目で足止めを食らっているのか。そんな緊張感はここには1ミリもない。ただただ楽しそうに堀内明子はアイスミントティーの魅力を語っているだけだ。彼女の幼い風貌も緊張感が希薄になってしまう一因だ。


ただ俺には別の緊張感がある。むしろ今はその方が重要だった。


俺は小学生の頃、隣の家の犬に噛まれてから、動物が苦手だ。

アイスミントティーの入れ方よりも、なによりも、早くここから、逃げたい。






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