二人の落ちこぼれ

 いくつかの退屈な授業をこなした後、昼前の最後の授業は魔術の実技であった。

 至極重いため息を吐きながらシルファ、フィーアはグラウンドへと足を踏み入れる。数十メートル先にあるのは的が括り付けられている案山子のような人形。

 そして生徒たちの横には大小様々な武器が配置されている。弓や銃といった遠距離専用武器だけでなく、斧やこん棒といった武器までもが用意されている。


「それではこれより、魔術訓練を始めます。まずは肩慣らしに遠距離攻撃の訓練です。ライン上に皆立ち、あそこに置かれた的を狙って魔術などを当てて下さい。また、各自好きな武器を使用しても構いません。手段は問わず、あそこの的に当たればオーケーです」


 朗々と辺りに響き渡る声でシルファたちの担当教師であるローゼン=ブライヤネットが本訓練について説明し始める。

 桃色の髪をショートカットにまとめ、猫のような黒の瞳が特徴である。先ほどと同じように朗らかな声ではあるものの、今やその瞳は厳しく細められ、真剣さを帯びている。


「もちろん、魔術そのものをを放って的を当てても問題ありません。最後に、一度ライン上に立ったらその場を離れないようにね。各々好きなやり方を取って下さい。以上!」


 ローゼン教師が告げ終えると、一斉に生徒たちが動き始める。ある生徒は武器を選びに、ある生徒は悠々と的を決めてライン上に立つ。

 スタートに乗り遅れたのは三人。シルファ、フィーア、ルビカの三人である。


「あ、あはは。遅れちゃった、ね?」

「まぁ私は急いで武器を選んでも仕方ないし。――シルファさん?」


 苦笑するルビカに対しルビカは肩をすくめる。が、シルファの様子がおかしいことに首を捻る。


「……あの魔術ならいけるか? いやでも火力高すぎて悪目立ちするし……それに武器を使ったところで的が吹っ飛んでらシャレにならんし……」

「シルファさーん。どうしたんですかー?」

「ッ!? い、いや、何でもないよ!? ちょっと考えごとしてただけだから! あ、あは、あはは!」


 ビクッと肩を震わせ、冷や汗をかきながら無理やり笑みを浮かべる。あからさまに奇妙な態度のシルファに二人は眉をひそめるも、特に追及することはなかった。

 三人は遅れながらも武器倉庫へと向かう。既に遠距離用の武器は根こそぎ取られており、残っているのは近距離から中距離用の投擲武器くらいがやっとだろう。

 しかしそんな中、フィーアは一番奥底に置かれている物へ視線を向けると、ぱっと笑みを浮かべた。


「あ、いいのめっけ!」


 ゴソゴソとまさぐると出てきたのは一対の弓と矢だ。この中ではまともな部類に入るであろう武器を見つけた幸運に、喜びを隠しきれない。


「お、おめでとうフィーアちゃん! これなら的まで届きそうだね!」

「……私、弓使ったことないんだけどね」

「だ、大丈夫だよ! 当たればいいんだから! ほら、さっそく試してみよ?」

「それもそうね……じゃあシルファさん、先に行ってるわね?」

「んー、りょうかーい」


 上の空なのか、シルファは二人の方に視線を送らず、考えごとをしながら武器を吟味している。集中しきった面持ちであることに気付き、二人もあまり声を掛けずにライン上に立つ。

 的はすべてで五つ。距離は全部異なり、近いものから遠いものまで様々だ。既にいくつか損壊している物もあるが、二人は比較的損害が少ない的の位置に立つ。


「あら? 落ちこぼれ二人が今から試験をするらしいわよ? 皆さんも見学しましょう?」


 二人の背後から突如、声が上がる。フィーアはうんざりした表情で、ルビカは対照的に至極怯えた表情で振り返る。

 後ろには先ほどシルファの事を罵倒した少女の姿が。それに試験を終えた生徒たち全員が立ち並んでいた。


「まぁ、フィーアったらそんな古汚い弓矢で的を当てるというの? やっぱり魔素が無いってのは本当なのね?」

「……少し黙ってなさい。アイナ=ドクトリーン。今から目に物を言わせてあげるから」

「それはそれは。どうぞ、ご奮闘くださいませ」


 二ィっと、アイナと呼ばれた少女は意地の悪い笑みを浮かべて一歩下がる。鼻息を荒くし、フィーアは矢をつがえ引き絞る。

 一本目は距離を掴むための試射。そのため集中して狙わず、適当に矢を放つ。

 思いのほか距離は飛ぶものの、的の数メートル手前で勢いを失い、矢は地面に突き刺さる。一部始終を見た後ろの見学者は失笑が漏れたものの、フィーアは気にする素振りも見せない。

 そして二本目。距離と左右のずれは今ので把握した。先ほどよりも力強く引き絞り、左右の向きも調整し、完璧に合わせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る