第3話 変化球だっていいじゃない


 これまでボクは、自分の作品を「変化球」という言葉で紹介してきた。

 ボクの文章を読んだことがある人は「なるほど」と思ったかもしれない。自分で言うのもなんだけれど、結構な揃い。


 ボクの変化球はいくつかのパターンに分類できる。


 多いのは「直球」と見せかけて手元で変化するパターン。

 直球のタイミングで打ちにきたバッターは、ストンと落ちるボールに見事な空振りをする。

 最後のフレーズを読んで「やられた!」という言葉を引き出すボールを「一言落ち」などと呼んでいる。


 投げた瞬間、明らかに変化球だとわかるボールもある。

 打者はじっくり軌道を見極めようとする――が、途中から想像とは違う動きをすることで意表を突かれる。

 例えば、投げた瞬間、カーブに見えたボールがいきなり手元で浮き上がるようなイメージ。「魔球」と呼ばれる部類に入るかもしれない。


 二種類のボールを組み合わせることで勝負するケースもある。

 カウントを稼ぐような、打ちごろのカーブを投げた後、同じようなボールを投げると、打者は「しめた!」と言わんばかりにほくそ笑む。そして、同じカーブの軌道を予想して打ちにくる。

 でも、思った以上に大きく曲がったボールにバットが空を切る。いわゆる「見せ球」を使ったピッチング。


 極めつけは、何の変哲もない直球を「変化球以上の変化球」に変えること。

 これは、ボクとの対戦経験が頻繁にある打者――ボクの作品を読み込んだ人向けのボール。「どんな変化でも対応してやる」と身構えてくる人に有効。

 スピードのない直球をど真ん中に投げ込んでも打つことができない。俗に言う「裏をかかれた」とか「虚をつかれた」といった状況で作戦勝ち。でも、時々しか使えない。そんなわけで、ボクは忘れた頃に直球を投げる。


 作品のネタばれになるので、具体的な比喩は使わなかったけれど、要は、読み手の奇をてらうのがボクの作品の持ち味。言い換えれば、ある種の「誤魔化し」。


 実際、作品を公開した直後はいつも、心臓の鼓動が早鐘のように鳴っている。

 ボクが投げるボールにはもともと球威がない。だから、球筋を見極められたら「打ち頃の棒球」になり下がる。「想像した通りのオチだった」なんて言われたら元も子もない。


 切れ味鋭い変化球や予想もつかない魔球で打者をきりきり舞いさせるのは確かに快感だけれど、常にホームランを打たれる危険と隣り合わせの状態に置かれている。

 まさに変化球投手の悲しいさが――。


 この「変化球」というフレーズは、もともと自分の作品を読者に印象付けたいと思って命名したもの。

 ただ、いつかは、抒情的な描写を自然に取り入れた、正統派の作品で「直球勝負」をしてみたい。

 いつになるかはわからない。でも、そんな日を夢見てこれからも投げ続ける――ボクにしか投げられない変化球ボールを。



 RAY

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