第10話 受勲式

部屋に朝日が差し込んでいる


もう朝?


「…んんっ」


上体を起こし部屋を見渡す。


部屋には私1人、どうやら上田くんは既に起きているみたいだ。


昨日はまさかムード作るだけ作って、寝落ちしちゃうとはね…


上田君には残念系主人公の称号をプレゼントするよまったく!



昨夜の出来事が鮮明に頭によぎり、

体温が上昇していくのを感じる。



お酒が入ってたからだとは思うけど、

いつも控えめなくせに急にグイグイくるのは

ずるい。



あの時私完全にに流されてたよね…


もしあのまま続いていたら…


もうただのチョロインじゃん…


「うう…」


顔を枕に埋め足をばたつかせる


今日からどう接すればいいんだろう。


好きだといってくれたし、もう目標クリア?


でもチート主人公のことだ、

ヒロインがどんどん増えて行き、

私がかませ犬になる可能性は大いにある。


5人くらいまでは覚悟しておくべき?


…先が思いやられるよ…


つまりもっと積極的に行くしかないよね。


様々なラノベのヒロインを見て来たけど、

結構グイグイ行ってるもんね彼女達。


例えば胸を当てるとか…



無理無理っ!


出来るわけなでしょ!


恥ずかしすぎるわ‼︎


「…何してるんだ楓」


「きゃっ⁈」


慌てて飛び起き、顔を隠すように手を構える。


「…なんだその変な構えは」


呆れ顔の上田君がドアの前に立っていた。


「う、上田君、 いつからそこに?」


「…1人で暴れていた時ぐらいからかな。 」


「さ、さいですか…」


そういうスキルでもあるのかってくらい、

この男は存在感無いな。


毎度驚かされる。


「…昨日の夜のことなんだが」


いきなり来たな…。


思わず俯いてしまう。


「…昨日はひどく酔っていたみたいでな、

…その、すまなかった。」


「…うん」


心臓の鼓動が早くなって行くのを感じる。


上田君の顔がまともに見れない。


「……だがな、あの言葉に嘘はないつもりだ」


頭が白くなっていく。


「その、私も…」


コン、コン


「…メ、メイド達を外で待機させてある。

準備が出来次第行く。俺は外に出てるぞ」


「う、うん!」



上田君と入れ替わるように、年配のメイドと若いメイドが2人入ってきた。


「では柊様のお着替えを。手伝わせて貰います。」


メイド達は手慣れた手つきで、私の服を脱がせ始める。


「…あの、聞こえました?」


「…少し」


「あの英雄にアプローチを受けるなんて羨ましい限りです!」


若いメイドに嬉々とした目で見つめられる。


「英雄?」


「知らないんですか?だってあの人は…」


「マリー手が止まってますよ」


年配のメイドに注意され、見るからに落ち込んだ様子になっている。


メイドも大変そうだね…


着付けが終わり、鏡で自分の姿を確認する。


さすがの出来だな。


「ちなみに貴方も近頃街で、天使だなんて呼ばれている有名人ですからね?」


私の耳元で年配のメイドがボソッと呟く。


なにそれ初めて聞いたんだけど!


「それどこで…」


「では失礼します。」


メイドは一礼すると部屋から出て行った。


…行ってしまった。


天使って……


もはや嫌がらせでしょ……


「…終わったか?では行くぞ」


無言のまま、受勲式を行う玉座の間へと向かっている


すごい気まずい…


「ち、ちなみに私って今日どこにいればいいの?」


「…貴族達の列に一緒に並んでいれば良い。

俺は受勲者だから別だ、何かあったら来てくれ。」


その後もこれといった会話も無く、玉座の間にまで到着した。


すごい変な距離感になっちゃったな…


これは作戦変更だね……。


想像以上に意識してしまって、積極的に行くどころじゃない。


中に入ると、両端には兵士が待機しており、

入り口から玉座まで伸びるレッドカーペットを隔てて貴族王族達が並んでいる。


圧倒的場違い感…


「ねえ、あんた!」


「は、はい!」


突然後ろから声がかかり驚いて振り向くと、

カールがかかった金髪の女性が腕を組んで、

私を睨んでいた。


「私に何か?…」


「とぼけんじゃないわよ!あんたが私のレオンを誑かしたって知ってるんだから!」


「えーと、貴方は?」


「私はシュヴァーベン公爵家次女

リリー.・ロゼ・シュヴァーベンよ。

レオンは私の婚約者なの!

少し可愛いからって調子に乗らないでよ

ね!」


レオンって確かあの侯爵様だよね。


婚約者いるのに私に求婚しに来たの?


うわぁ…


でも世界平和のためにも、求婚して来たなんて言えないし、ここはなんとか誤魔化さないと!


「これはリリー様、お初にお目にかかります、私柊楓と申します。

先日レオン様は体調が悪かった私に、気づかって話してくれただけなのです。

それにしても、リリー様は愛されているのですね?少しの時間でしたがレオン様は、止まらぬ勢いでリリー様への愛を語っておりました。」


どうだろ?


リリーの顔色を伺うと、人差し指同士を合わせながら俯いていた。




「そ、そうなの?

…えへへ、そうなんだ。

やっぱりいつもは照れているだけなのね!

疑ってごめんね楓。

ではその、一緒に並びませんか?」


はい余裕ー!


こういった事を中学の頃から何度も体験している私に、それはきかぬよ!


ご機嫌のリリー様について歩いて行く。


********************


勲章式開始より2時間が経過


冒険者が次々と呼ばれ国王より、勲章を受章をしている。


いや長いわ!


一々そんなに溜めを作る必要ある?


高校に居たハゲ校長のことを思い出すよ。


何か勢いで参加した事を後悔してきた…


リリー様なんて横で立ちながら寝てるし…


あっ、次上田君だ。


上田君も他の冒険者と同じ様に、レッドカーペットを歩いていき、王の前で跪く。


「ツキガミミカドよ、此度の魔王の中枢都市陥落作戦において 魔王軍一個師団の単騎での殲滅、

及び、魔王軍幹部の討伐の成果により、月神帝殿に大一等勲章、金一封、騎士公を与える。」


なんかもう驚かなくなって来た。


だって上田君だよ?


上田君だったらやるでしょ!


あっ、次レオン様だ。


横でリリー様の怒涛の自慢が始まる。


急に起きたな……。


レオン様が終わっても、まだ半分くらいいる。


異世界にまで来てこんな事を体験するとはね…


もっとこう異世界らしい心踊る事をだね…


バンッ


扉が勢いよく開き、会場中の視線が集まる。


扉の前には迷彩柄の軍服を着た男が立っていた。


「緊急事態発生!王都に突如複数の魔物の出現を確認!」


もしかして今のフラグになっちゃった⁈


すいません神様!さっきのは嘘です!


本当は平凡な日常が大好きなんです!


ってちょっと待って!


入ってきた兵士の顔をよく見る。


伊藤君?


あれ伊藤君だよね…


オタクトリオを冒険者組合で全く見ないと思っていたら、城で働いていたんだ…


しかし迷彩柄の軍服って、ファンタジーの世界観ぶち壊しも良い所でしょ!


これ絶対山田君のせいだ。


確か軍事オタだったもんね…


上田君もだけど、みんなやりたい放題し過ぎじゃない?










































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る