第8話 初めての休日

「楓様〜朝ですよ〜楓様〜」


体がゆさゆさと揺れている。


「ん、んっ…あと後ちょっとだけ…」


「ダメです!今日は出かけるんですから!」


勢いよく布団が剥がされる。


「…ゆあちゃんの鬼……。」


瞼を擦りながらゆっくりと上体を起こす。


痛っ


うわっ、全身筋肉痛だよ…


「鬼でも何でも良いですよ。

さあ着替えましょう!」


重たい手足を動かしながら、毎度お馴染みのメイド服に着替える。


しかし洗濯用の魔道具は本当に凄い。


こう毎日来てるのにヨレたりしないし、汚れも完璧に落ちる。


前の世界でどれ程お気に入りの服の洗濯に気を使った事やら。



「楓様、準備が終わりましたら宿の前に来てくださいね。殿ももう外に居りますので。」


そう言い残し部屋から出て行った。


朝から忙しすぎでしょ…


急いで支度をして小走り気味に宿からでる。


「上田君お待たせー、ごめんね遅くなって。」


宿の前の壁に、背中を預けていた上田君に声をかける。


「…問題ない」


「あれ?ゆあちゃんかは?」


周囲を見渡すが何処にもいない。



「…ゆあなら突然用事を思い出したらしく、

1人で何処かへ行った。」


「そうなんだ」


ゆあちゃん結局いないんかい!


それにしても基本ゆあちゃんと、上田君セットで居るから別行動は珍しいな。


「…2人きりが嫌なら、また別の日にするが…。」


「ううん、私は大丈夫だよ!」


上田君そういう事気にするんだ。


他の人の顔色とか関係ないぜ!って感じだと思ってたから以外。


「そうか…」


宿から街の中心部に向かって歩いていき、

一際人通りに多い道に出て来た。


「ねえねえ上田君、何処まで行くの?」


「…あそこだ。」


ここ?


「えぇ…上田君女物の服買うの?」


上田君が差した店は、店頭に女物の服が並んでいる店だった。


まあそう言う趣味の人が一定数居ることは知ってたけど…


まさか上田君がね…


「…何をバカなことを言っている、楓のだ。」


「私の?」


「…いいから行くぞ」


私がポカンとしている間に、上田君は既に店の扉を開け中に入ろうとしていた。


慌てて上田君を追うように私も店のドアを開ける。


「ちょっと待ってよ上田君!

私そんなお金に余裕ないよ?」


店に入ると既に店員と上田君が何やら話していた。


「…気にするな、では任せたぞ」


「かしこまりました」


上田君が先程まで話していた女性の店員に

声をかけると、店員は笑顔で一礼した。」


「ではこちらにお入りください。」


店員に促され私は着衣室に入る。


…どう言う状況?


「お客様、まずはこちらからお願いしますね。」



手渡されたのは、重ねて着るタイプの町娘の様な服。


…とりあえず着れば良いよね?


ー5分後ー


「…着れたよ?」


カーテンを開け、上田君と店員に声を掛ける。


「如何でしょう?最近の流行りなんですよ?」


上田君は私を一瞥した後、顎に手をあて何やら考えている


「…ふむ。」


上田君が短く返事をすると、店員は店の奥に行きドレスを持って出てきた。


「では次はこちらですね。」


店員からドレスを受け取り、再び更衣室に入る。


これも着れば良いんだよね?


うわ、露出多いな。


ー5分後ー


「…どう?」


カーテンを開け2人に声を掛ける。


上田君は一瞬私を見ると、すぐに目を逸らした。


上田君の顔が赤くなっていく。


「……ふ、ふむ。」


店員は再び店の奥へと行き、カジュアルな感じの服をを持ってきた。


ー2時間後ー


「これで最後ですね。」


ロココなんて初めて見たよ…。


それにしても疲れた……。


完全に着せ替え人形と化してたと思う……。


って、いつの間に上田君タキシードに着替えたの⁈


いつも和服だから違和感凄いんだけど!


「お気に召すものはありましたか?」


「うん、それはたくさんあったけど…」


お金が…


「……ふむ、全て貰おう。後それは着ていく。」


上田君は満足気に頷くと、

並べてある服の中から白を基調としたドレスを指し店員に指示をだす。


その後、店員の手の平に5枚の金貨を手渡した。


何その大金⁈


確か金貨一枚日本円で10万円くらいだったから、50万⁈


「お買い上げありがとうございました!」


店員はニコやかにお辞儀をすると、

私が着たたくさんの服を持って、

店の奥に行った。


私も更衣室に行き白色のドレスに着替える。


「上田君あんなに買ってくれて大丈夫なの?」


「…服は必要だろ?」


「そうなんだけど…でも上田君私なんかの服でそんなにお金使って良いの?」


そもそも何でそんなお金あるんだろう?


私達の収入源はクエストの報酬で、それを3人で分けている形だ。


しかしこの前のオークキング以外、

私に合わせた低レベルのクエストばっかりで

大したお金になっていないはず…


「…問題ない」


なら良いけど……


上田君は店員から服を受け取ると、

何も無い空間に投げ込み服が消える。


何度見てもそれずるいな….


何ちゃら収納とか言う魔法、私も早く欲しいんだけど。


「…では行くか。」


ええーこのドレスで出歩くの?


派手だし目立ちそうなんだけど。


…まあメイド服も同じようなものか。


「次はどこに行くの?」


「…昼食をとり、武具屋に行く、その後は…

まあつけば分かる。」


「ふーん、何かデートっぽいね!」


「……そう、か?」


タキシードとドレスで武具屋に行くことがデートかは分からないけどね……。


あっ!それより、


「上田君、服買ってくれてありがとう。

何かお礼できる事あったら言ってね?」


「……あ、ああ」


上田君は私から顔を逸らすと、それだけ呟き店の外に出た。


何かまずかったかな?…


まあいっか。


折角の休日だし、楽しみますか!


私も勢いよく店から飛び出し、上田君の腕を掴む。


「ねえねえ何食べに行く?」


********************


「服に続いて、またこんなに買って貰ってごめんね?」


「…さっきも言ったが、金なら心配するな

これも必要経費みたいなものだ」


そうは言っても購入した店が、一般用の武具屋じゃなく、上級者しか相手にしない凄腕の鍛治師がやっている武具屋だったからね、額が…。


プレゼントで1万円くらいのマフラーなら嬉しいけど、車プレゼントされると素直に喜べない的なアレですよ…。


今回購入したのは、


まず武器から


先端に氷の結晶が付いている杖。

何でも氷魔法の攻撃力5倍、

魔力消費を半分に抑えるらしい。

ちなみに金貨12枚……。



次に装備


後方型の魔法使いは基本的にローブらしいんだけど、上田君のすごい推しにより、

メイド服やドレスに付与魔法をかける事になった。

あの時の上田君の、メイド服やドレスで戦うことの良さを語った力説は凄まじかったな…。

たまたまこの街に来ていた、凄腕の付与魔法使いをわざわざ呼びだしてかけてもらったんだけだ、いくらかかったかは怖くて聞けなかった…。


ちなみにかけた付与は、防御力UP、魔法防御UP、自動修復だ。


確かミスリル製の鎧の耐久力と同程度くらいにはなったとか。




次にアクセサリー


アクセサリーを装備できるのは3つまでらしく、それ以上は効果を失うらしい。



1つ目はブレスレット



風魔法で出来たダガーを魔力を込めることで無限に生成できる。

後方とは言え、近接用の武器も必要だがらだ。



2つ目はリング



投擲能力が上昇する。

先ほどのダガーを投げる時に有用になる。




3つ目はネックレス


精神状態を安定させる効果がある。

冒険者をする上で幾度となく直面するであろう、死の恐怖を和らげるため。


このアクセサリーも3つで、杖の半分くらいの値段がしたと思う。


いつ何があるか分からないと言うことで、今も一応付与をかけてもらったドレスを着て、アクセサリーは装備している。


杖はさすがに上田君の魔法の中だけど。


元が弱かったからどれだけ良い物を身につけても、そこまで強くなっては無いけど、今ならオークキングといい勝負出来そうなくらいにはなってそう。


しかし、すごい借りを作ってしまった気がする……。


外に出ると既に日は落ちかけていた。


「そろそろ宿に戻る?ゆあちゃんも戻ってるんじゃない?」


「…俺はこの後用がある。

出来れば楓にも着て貰いたいが…

まあ無理にとは言わない。」


「私は大丈夫だよ!」


たくさん買って貰っちゃったしね!


「…助かる。」


街の中心部に向かって、メイン通りを歩いて行く。


街の端からでも見えたソレが、どんどんと近づいてくる。


嫌な予感しかしないんだけど……。


ま、まさかね?


とうとう目の前にまで来た。


「…う、上田君、もしかして目的地ってここだったりする?」


「…そうだ」


目の前にある建物からはいくつもの塔がそびえ立っており、その壁や屋根は華麗な装飾が施されている。


うん、間違いない…



こは城だね……。



「上田君?お城に私達が何しに行くのかな?」



「…まあ少しいろいろあってな、今夜開催される国王主催のパーティーに出席しなければならなくなった。」


へ、ヘ〜少しいろいろあったら、そんな事もあるんだね〜へぇ〜


……


いや、そんな訳ないでしょ!


「…上田君?何でパーティーに呼ばれちゃったの?」


「…国王から直々に受けたクエストが昨日終了したからな。」


……


まだ私達来てから10日間くらいしか経って無いんだけど…


何をやったらその短い期間で国王の信頼を勝ち得て、直々のクエストとやらを受けて、それをクリア出来るの……


夜いつも居なかった事と、大金がある事に納得言ったよ…


やっぱりこの人主人公だ…うん。


実際に目の当たりにすると、若干引くレベルなんだね……。


「上田君が珍しくタキシード着てて、私がドレスまで着てるのはそういうことだったんだね?」


「…ああ、国王からもう1人女性を招待するように言われてな。」


「パーティーに参加するのは良いけど、次からは重要な事は早めに言っておいてね?」


心の準備とかいろいろあるからね?


上田君の説明が少なかったり、無かったりするのはいつもの事だけど、さすがに国王主催のパーティーは先に行って欲しいよね……。


「…すまん……。」

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