第11話 ロック

あれから大分経ったな。十日ぐらいだろうか。僕達は休養に入っている。しかし、もちろん訓練は欠かさない。身体能力は、ロボットに大きな影響を与えるからな。このところ、カメ達の動きがますます活発になってきているらしい。カメ達は、何がしたいんだろう? カメ達異星人のトップは、コマペンとかいうヤツなのか。

アイカが言う。

「休養期間もそろそろ終わりですね。また、戦いが始まる。私は何故戦うのでしょうか? 私は、もう兄さんを言い訳には出来ません。私は義務に逆らえないだけなのですか」

キラーが言う。

「俺はまだまだ満たされない。満たされてはならない。殺意の火が消えたら俺はどうなる?」

そこに待っているものはってか。この三人の中では、僕が一番気楽なのかもしれないな。僕は言う。

「アイカは僕が守る。いや、それは違うな」

「違うんですか? そうですか、兄さん……。私はそれでもここに、兄さんのそばにいたい」

「違う、そう、僕は守るんじゃない。大切な人達を守りたいんだ、心まで溶かしてしまうほどに」

「兄さん、私は思うがまま、わがままに生きています」

キラーが言う。

「殺意に満ちた世界をライバルに見せたい。カメタ、くたばるなよ、約束の日までな」

カメ達に注意か。注意していても、来るものは来るよな。僕は、もうクワン族を悪とは思っていない。しかし、それでも僕達は殺し合いをする。永遠に続くかと思ってしまうこの嫌な予感は何だ? 三十年計画か。三十年で何をするっていうんだよ。

次の任務は、クワン族の拠点の一つを落とすことだ。僕達は、実力をかなり認められてきたようだ。温泉に浸かっていた日々は終わりだ。僕達は目的の拠点へ向かう。向かうといっても、その途中にはかなりの試煉が待っているのだろうな。

ある程度進んだところで、レーダーが反応する。カメだな。十機程度か。予想したほどの数ではない。ちょいちょいとやってしまうか。しかし、殺すことを仕方がないでは済まされない。僕達は悲しみを背負うんだ。キラーが言う。

「レーダーに見覚えのあるロボットが映っているぞ。今度こそ殺す!」

アイカが言う。

「冷静に、落ち着いていきましょう」

キラーの言う通り、確かに見覚えがあるな。その時が来たってことか。

カバが言う。

「残念でした。今日はオレが遊んでやるよ、カメタ」

遊ぶって何だよ。戦いが、殺し合いが遊びだと。しかし、僕達はここで感情的になってはいけない。冷静になるんだ。落ち着くんだ。カメの数は少ないが、前より強力だ。近くに味方はいないようだな。カバは相当強いぞ。

僕はギアを三にする。ここで体力を温存しつつ、カメを倒す。キラーが急接近を使い、カバを牽制する。カメは守りに入ったようだ。しかし、キラーの剣はカメを切り裂く。キラーの剣は強力なはずだ。それでも、一撃では倒せないのか……。カバは、まだ本格的には動かない。ビームが飛び交う戦場だ。アイカは力の歌を歌う。しかし、それはカメに中断されてしまう。アイカはクマちゃんのスピードをあげる。カメ達を振り切りながら、必死で歌っている。その歌声をいろんな人達に聞いて欲しいと僕は願った。

カバが遂にビームを放つ。そして、それはアイカがのバリアを貫通する。しかし、おかげで威力は弱まった。カメットは無事だ。アイカが言う。

「あなた達は何がしたいんですか?」

カバが言う。

「クククっ。その時が来れば解るさ。オレは世界を守る」

世界を守るだと? 戦いを遊びにするヤツのセリフじゃないぞ。キラーが言う。

「ならば、俺はきさまらを殺す。カメタの望む世界などあてにならない」

そして、貯めに貯めたミドルビームを乱射する。貯めることで、威力自体も上がっているようだ。また一機、カメが撃墜される。キラーは凄い成長力だな。僕もライバルとして、置いていかれる訳にはいかない。ミドルビームは、カバにもかなりヒットしている。アイカはそこにクマちゃんのクローをカバに決める。これは効くんじゃないか。

カバが言う。

「もっと来いよ。これではつまらない。んっ、何かがおかしい。しかし、気にするほどのことではないだろう。そっちが来ないなら、オレがいたぶってやる」

カバは突進して来る。僕は変幻を巨大化させ、それでガードする。しかし、それでもカメットは吹っ飛ばされる。僕よりカバの方が、明らかに強い。しかし、僕に勝算がない訳ではない。何故ならキラーもアイカもいるからだ。覚悟の違いを見せてやる。本気にさせてやるよ。サツイのエネルギーは貯め直しか。しかし、キラーは攻める。エネルギーを貯めつつ、急接近を使いカバを切りつける。僕は、カバが反撃するところにカウンタービームを見舞う。キラーは再び重い一撃を放つ。しかし、それはかわされてしまう。あれさえ決まっていれば、流れはこちらに来ていたかもな。カバはビームを連射する。アイカのバリアが再び破壊される。僕はここらでいくかと決心して、ギア五に手をかける。そして、変幻を使う。こちらから激突を仕掛けろ。行くんだ! キラーのショートビームが準備されている。突撃と共に行けー!

カバが言う。

「やるな。しかし、何かがおかしい。何だ、この違和感は。寒い。震えるようだ……」

カバの様子がおかしい。しかし、こいつは敵なんだ。僕達は容赦しないぞ! カバは言う。

「きさま、本当にカメタなのか? こいつはカメタじゃないのか」

僕は答える。

「僕はカメタだ」

アイカも言う。

「私の兄です」

カバは迷っている。

「そんなバカな。全ては制御されているはずだ。貫かれているはずだ。心、好み、性格……全ては制御されている。なのに何故お前は、制御されていない! 何が起きているんだ。パワーさえも制御されているんだ。きさまは誰だ?」

カバは明らかに取り乱している。キラーは、容赦なくカバを切り刻む。

アイカが言う。

「何が起きているのでしょう?」

カバが言う。

「何者の仕業だ? 今からアクセスする。繋がれ! えっ……制御が出来ない。ロックされている。カメタの感情がロックされている。平和の意思の差し金か! カメタ、きさまは平和の意思の化身なのか?」

何だ、それは、ってことだな。僕は言う。

「僕は平和の意思など知らない。カメタだ、間違いない」

アイカが続ける。

「私の血を分けた正真正銘の兄です」

「俺のライバルだよ」

とキラー。

カバは更に取り乱す。カバは言う。

「平和の意思は生物を選んだ。このままいけば、世界は守れない。平和の意思は、世界を破壊する。十万年後には、世界はカオスと化する。それは避けなければならない。平和の意思はきさまか、カメタ」

コマペンが言う。

「落ち着け、カバよ。平和の意思など絡んではいない。因みに僕は、野菜畑を耕している途中だ。ロックとは厄介だな。仕留めろ、カバ」

カバが言う。

「えっ、そうなのか。ならば仕留める。カメロウを操ったカメットか。カメ達の心は全て制御されている。全てオフになっている」

何だと? こいつらを何とかしないといけない。しかし、ロックとは何だ? 何がロックされているというんだ? クワン族と争っている場合ではない。僕はあまりにも無力だ。従うしかないんだ。でも。出来ることを一つずつやるしかない。

カバを倒すんだ。キラーがロングビームを放つ。アイカがバリアを張る。そうだ、僕は一人じゃない。抵抗するんだ、このいかれた世界に。平和の意思が何だか知らないが、僕達は自由になるんだ。自らの力で心で、世界をカオスなんかにはさせないんだ。

いろんな人達を見てきた。僕は平和の意思にも制御にも従わない。アイカが言う。

「私はわがままです。例え離れていく存在が悲しくても、私は私です」

キラーが言う。

「俺は平和の意思など知らん。カオスの世界? 残念だ。俺が望むのはカオスを超える殺意だ」

カバが言う。

「何が起きているんだ? 制御の力が弱まっている。コマペン様の望む世界にするんだよ」

カバは冷静さを失っている。しかし、突撃の威力は上がっている。どうする? かわすか、迎え撃つか? なんならこっちから仕掛けるか。カバが言う。

「それが無謀というものだ」

僕は答える。

「違うね。信頼の力だ」

キラーのミドルビームがカバを捉える。しかし、カバは止まらない。僕は吹っ飛ばされる。ギア五に慣れてきたところだったんだが。スキだらけのカバに、クマちゃんのクローがクリーンヒットする。カバが言う。

「何故、実験体キラーが心を持つ? 三十年計画以外の何かに関わろうとしているのか? キラーはオモチャのはずだ。オモチャが逆らうはずがない。どうなっている?」

キラーが言う。

「きさまの頭では理解など出来ない。死ね!」

キラーは急接近を使い、剣を振り下ろす。カバはそれを何とかかわした。僕はビームを乱射する。カバは全て回避する。しかし、それは誘導だ。行け、クマちゃん! クローがカバを切り裂く。僕達は一人ではないんだ。カバがどんなに強くても、人間がクワン族と争っていても、僕達自身が道を拓くんだ。無力でも人々は戦う。コマペンが何をしようとしているかも解らない。ロックも何のことか知らない。平和の意思とやらも知ったこっちゃない。僕は僕なんだ。僕は再び突撃する。アイカは守りの歌を歌う。僕は言う。

「とどめは譲るぞ、キラー!」

キラーは答える。

「当然だ、ライバルよ!」

サツイのロングビームで、カバのロボットは遂に大破した。とうとう決着が着いたようだ。アイカが言う。

「私の未来は、きっと見つけられる……」

アイカが、何か考え事をしているようだな。アイカはそんなに焦ることはない。僕達のきずなは、そう簡単に切れたりなんかしないさ、例え離れてしまっていても。そんな日は来ないことを願うが。


ショートストーリー3 心の草

ローラはクイーンを駆り、カメタの父が経営するパーツショップを訪れていた。ローラが言う。

「すっごいガーデンだ。広さは大したことないけどね。カメタとアイカちゃんが羨ましいかも」

「パーツを褒めて欲しいんだけど、ローラさん」

「うーん、クイーンに合うパーツが少ないんです。そうだ、私も『変幻』見たいなの欲しいな」

「ハハハ、私は変幻を作る時、『心の草』を燃やしてしまって、草を育て直しているんだ」

「『心の草』ですか。よく解らないけど、店長はいつも言っていますね。医学ではどうにもならないのですか?」

「ローラさんは、ドクターを目指しているんだよね。ジロー君とハナコさんは、いい養分になっていて、ローラさんはもう通用するんじゃない? ローラさんの『心の草』は頑丈だが、たくさんの人をいやすには限界がある。ローラさんがどういうドクターを目指していても、心の草は燃え尽きることがあるのさ」

「『心の草』とは、『心の健康』のことなんですね。確かに、頑張り過ぎて『心の草が燃えたら』大変だ。店長は、校長先生でもいやせないほどの力を、『変幻に注ぎ込んだ』んだ」

店長は言う。

「ハハハ、でもローラさんは心の草の育て方を勉強している。草の生長をはかることを、たくさんの人に与えられる。でもね、『自分の草』だけは無理なのさ」

「そうか。ジローとハナコを大切にしないと、私の草が危ういです」

「一つ心配なのは、ロラン君さ。ロラン君の草は強い。たくさんの人々に支えられている。そこで過信が生まれるかもしれないよ」

「ロラン兄さんは無理するから。私も支えないと……。私が店長の草を強化するので、その時は最高のパーツをお願いです」

「『変幻』の時にぎりぎりの線を見つけたから、『最高のパーツ』は約束出来ないけど、楽しみに待ってて、ローラさん」

「はい」








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