第4話 平和の意思

場所は、クワン族の本部に移る。ローズが言う。

「光エネルギー装置を大分破壊されたか。破壊と再生、三十年計画は順調だ」

ナナが現れて言う。

「ローズ様に会いたいという者が来ていますが……。私が適当にあしらっておいてもいいですが」

「まあ待て、ナナ。ナナには苦労をかける。親を人間に殺された恨み、そう簡単に消えるものではないだろう。それなのに、私は人間との共存を望んでいる。交渉マシンの完成に犠牲のためになる者達の気持ちも、私には解らないのかも知れないな」

ナナが答える。

「ローズ様は優し過ぎます。自分にももっと優しくして下さいね。全部背負おうとする。それで、グシンの件は?」

「利用するだけさ」

「また、そのようにはぐらかす」

ローズは思う。『ロボット学校の校長か。しかし、それで解決するわけではない。権力がないか。私は権力にすがる卑怯者だ』

ナナがため息をつく。ローズの考えていることが、大体解ったのだろう。

……そして、場所はカメタ達のところに戻る。

僕達は、光エネルギー装置を大分破壊したはずだ。しかし、装置は限りなくあるようで、めぐみの光は相変わらず光エネルギーに遮られている。こんな状態で、この戦争は終わるのか? それとも、終わりは永遠に来ないのか?

今僕はロボットから降り、軍に注文した野菜を食べている。このままでは、野菜が食べられなくなってしまう。アイカが言う。

「最近のブタの脂肪は少ないですね。がっかり」

クワン族も、好きでやっているわけではないんだろうがな。しかし、キラーはまた高級寿司なんか頼んでやがった。栄養が偏るぞ。僕は言う。

「次の任務までの期間は、まだまだあるな」

と僕はアイカに確認した。アイカが答える。

「そのようですね。ゆっくりしましょう」

それにしても、ドラゴンウサギは三十年計画について、なかなか吐かないらしいな。ローズがそんなに大切なのか? キラーが言う。

「そろそろ行くぞ。殺し足りん。ドラゴンウサギも殺してみたかったな」

この草はクッションになって、座り心地が良かったんだけどな。もう終わりか。

次の任務は、クワン族の所有する土地の占領に加われ、か。クワン族は本気で土地を守ってくるだろう。味方も多いが、敵の数の方が多そうだな。ピンチに陥ったら、撤退命令が出るようだがな。ここを落とせば、こちら側が少しばかり有利になるはずだ。クワン族のほうも、我らの土地の占領を企てている。何時になったら終わるんだ、って話しだよ。どちらかが滅びることなど、あるのだろうか?

僕達は、全力で戦わなければならない。その先に、本当に平和は待っているのか? 確信を持てる者などいないだろう。先のことなんか、誰も解らない。誰かが考えてくれるのだろうか? アイカが言う。

「兄さん、最近考え事が多くなったみたいですね。私も何かを見つけないといけないです」

「考え過ぎだ、アイカ。必要な時に見えてくるものだろ、多分。今は、その必要がないんじゃないか」

「じゃあ、今は兄さんに甘えておきますね」

そう言って、アイカが微笑んでいる。しかし、戦場でこんな和やかな空気は、滅多にないだろうな。僕の願いは、大切な人達を失わないことだ。きっと、それだけでいいんだ。

キラーが小声で呟いている。

「オレはオレの殺意が満たされればいい」

僕達は、何故戦わないといけないんだろうな。大人の事情ってやつかよ。僕達も、それに既に仲間入りしてしまったようだ。

アイカが言う。

「レーダーに反応がありました。十機くらいでしょうか」

キラーがニヤリと笑う。殺意に満ちた表情だ。何がキラーをそこまでにはさせるのだろう? 僕は言う。

「まだ目標地ではないぞ。もうやって来たのか」

「それが、クワン族ではないようです。こんなロボット、データにはありません」

「何だと!」

と、僕はレーダーを見つめる。アイカも戸惑いを隠せない。こいつらは何者なんだ? こちらに気づいているようだ。どんどん接近して来る。僕は叫ぶ。

「お前達は何者だ?」

嫌な予感がする。みんなカメ型ロボットだ。仲間だと信じたい……。キラーが言う。

「カメだな。謎の生命体か。その謎の生命体が身内にもいる気がするがな」

笑えないぞ、キラー。遂にこちらに向けてビームを放ってきた。アイカが常にバリアを張ってくれていて助かった。キラーが叫ぶ。

「オレより先に手を出すとは、マナーがなってねえ」

キラーが応戦する。僕はキラーを制止して言う。

「待て、キラー。本当にカメなのか。何が目的だ?」

しかし、返事は返って来ない。ただ、不気味にもこちらを攻撃してくる。父さんと関係有るのか? キラーが叫ぶ。

「戦え、カメタ。こいつらに心はない。何かに奪われたように感じる」

奪われた、だと? キラーも確信はないのだろう。断定はしなかった。

んっ。一機だけカメ型ロボットじゃないぞ。あのカバっぽいのがリーダーか。パイロットが言う。

「カバっぽいじゃなくて、本当にカバだがな。あの時の人間が落としたものか? カメットと言ったな。貴様らは平和の意思に従うのか?」

僕が答える。

「何を言っている。意味が解らないぞ」

キラーが横から言う。

「手を動かせ、カメタ」

くっ、こんな状況ではアイカにも迷惑がかかる。戦うしかない。僕が撃てばアイカも撃つだろう。僕は変幻を十メートルまで巨大化させる。初対面で、これは効くだろう。ギアチェンジに、さらに突撃だ。ズバッ! 何? 手応えがあまりない。カメだけに硬いってか? それなら、カメットも同じだ。アイカは戦いの歌を歌う。アイカも戦争の時代じゃなければ歌手に成れたかもな。キラーが接近戦を迫られている。しかし、カメットのビームぐらいでは、二機を引き離せない。クマちゃんがクローを繰り出す。その間にキラーは距離を取る。あのロボット達、カメットに似ている。しかし、性能はカメットがずっと上だ。しかし、長期戦になりそうだな。ところが、カバは戦いに参戦しない。何故だろう? 相当なパワーとも圧力とも言えるものは感じられる。トップクラスの実力は持っていそうだな。

キラーが言う。

「お前は戦わないのか?」

カバは答える。

「今はその時ではない。カオスの世界はごめんだからな。困ったペンギン様は、平和の意思、生物を守る者を許さない。コマペン様は……」

コマペンだと? 何がどうなっているか、もう訳が解らない。つまり、異星人ってことか。人じゃないみたいだが、ここはスルーだ。

コマペンが言う。

「しゃべりすぎだぞ、カバ。野菜を用意しないと許さん。カメロウはカメットに操られたか……」

カバが言う。

「すみません。すぐ用意します」

カバはコマペンとやらとの通信が終ると、急いで去っていった。残されたのはカメ達だ。父さんを知っているのか。カメットに操られたとは、どういうことだ。僕はどうなんだ? あんな奴らの言うことを信用することもない。母さんは、父さんの心がどう、とか言っていた気がする。アイカが言う。

「兄さん、迷わないで下さい。アイカはここに、兄さんの近くにずっといます」

キラーが言う。

「きさまら、よそ見している場合ではない。まあ、オレの殺意が満たされればいい。こいつらは、殺しがいがありそうだ」

キラーは狂ったような表情をする。キラーもよく飽きないよな。そうだな、必要なことが来るまで、出来るだけ迷わないようにしよう。僕は言う。

「アイカ、ありがとう」

「えっ? はっ、はい」

アイカには、僕の言葉が予想外だったようだな。カバと戦う日は、また来るだろうか? それにしても、キラーはエネルギーを貯めるのが上手くなったな。サツイの性能をずいぶん引き出している。サツイがクロー高級品なだけに、使いこなすのも難しいようだ。サツイのロングビームも、前よりずっと太くなった。これは確かに強力だぞ。キラーが次々とカメを倒していく。嬉しそうな顔をしているな、キラー。よくやるよ。カメの防壁も大分弱まってきたようだ。

アイカが言う。

「兄さん、ギアを元に戻して! こちらの勝ちはほぼ確定です」

僕はアイカの言葉に従う。キラーはいつも全力だな。それにしても、思わぬ敵が現れたものだ。そして僕達は遂にカメ達を全滅させた。こいつらは何者なんだ? 何をしに来やがった。僕達を殺す気は無かったみたいだ。ただ、タイミングを計っているようにもとれた。父さんの秘密も知っているし、カメットの秘密も知っているようだった。制御説は本当なのか? やつらが争いを生んで入るのか? 解らないが、今は仲間達といこう。というか、疲れた。ゆっくり休もう。そして次の日には、ロボットの整備を済ませた。

僕達は、また戦場へと向かう。キラーが言う。

「次はどいつだ」

アイカが言う。

「私も、もう少し休みたかったです」

対照的なセリフだな。僕はアイカに同意するぞ。

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