第五章 其の心、影に揺らされ―6

 アリムの心がぐらぐらと揺れる。

 少し離れたところで、支部長が手を差し伸べている。

 思わず手を伸ばそうとしたところで――

「……そう大人しく奪われるわけないだろう」

 トリバーの手が、アリムの腕を止めた。

「同じ情報なら……こっちだって持っている」

 緑の髪の青年は、半眼で支部長を見つめている。

 支部長は笑った。

「ふん。アークのような若造では正しく教えられんさ」

「それを決めるのはアリムだ」

 びくん――

 アリムの肩が震えた。

「どうする?……どちらの口から聞きたい?」

 トリバーは問うてきた。「あの支部長の口からか。それともあの能天気バカの口からか」

「………」

 アリムはふと、戸口で震えている少女を見た。

 ルクレ。話についていけないのか、怯えた表情で支部長を見つめている。

 自分と、同い年だったはずの彼女――

「……トリバー、さん」

「なんだ」

「あなた、は……あなたではなく、アークさんの口から……聞けと言うんですね」

 トリバーは面倒くさそうに、髪を乱した。

「単に俺が説明するのが面倒くさいだけだ」

 ――そしてその重要な情報をもたらす役目を、簡単に渡す相手。

 アリムはトリバーの服のすそを離し、すっと自分の足で立った。

 そして、エルレクをまっすぐに見た。

「支部長。……ぼくは十七歳ですよね」

 エルレクは片眉をあげ、少し考えるかのような時間をとった後――

「そうとも。十七歳だな」

 と言った。

「この街では職を持てる年齢ですよね」

「もちろんだ」

 アリムは自信満々の笑みを浮かべたままの男を見たまま、

「トリバーさん」

「だからなんだ」

「ぼく……十七歳ですよね」

 問うた。

 面倒くさそうな返答があった。

「知らないな。人間年齢で言えば十四じゃないのか。まあどの年齢を取るかはお前次第だが」

「―――」

 アリムは――

 そっと、トリバーに視線を向けた。

 向けた茶の瞳に、穏やかな笑みを乗せて。

「……ぼくは、最初から、アークさんに聞くためにこの街に来たんです」

「そうだろうな。最初からそうだ。アーク、アークってうるさかったろうが」

「そうでしたね」

 アリムは、思い出して照れ笑いした。

 トリバーが――

 珍しく、その唇の端に笑みを刻んで。

「連れていってやる」

 手を差し出してきた。

 アリムは迷わず、その手を取った。

 エルレクの、悲鳴のような声が聞こえる。

「なぜだ!」

 アリムはそっとつぶやいた。

「あなたは今でさえ……本当の情報を教えてくれなかったんです。支部長……」

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