漏れなつ。‐もれのなつやすみ‐

箱丸

プロローグ

 清行

「あじぃーーーー」

夏休みって言っても。することないよなあ……。

特に趣味とかも持ってないし。

 清行

「今年の夏もこうやって何もなく過ぎていくのかなあ……」

 母親

「あんた、何言ってんのよ?こんな天気の良い日に家でゴロゴロしてたら、そりゃ何も無いでしょうよ。それより宿題はやったの?」

 清行

「もちろんやるよ。ちぇっ、休みだからゴロゴロしてるのに」

 母親

「あっそうそう、お友達から手紙が来てたわよ。懐かしいわねえ」

 清行

「手紙?このご時世に?そんな友達居たっけな」

それがアイツからの手紙だった。

手紙には、汚くて短い文章でこう書かれていた。

[よお元気か、俺はあいかわらずだ。みんなもお前に会いたがっているぞ。たまには帰ってこいよ、まってるぜ]

 清行

「字へたくそだなあ、手紙書くんだったらもっと色々と書く事があるだろうに。

……でも、アイツらしいや」

漏れが少年時代を過した水里村みなさとむらからの手紙。

漏れの脳裏に様々な事が浮かび上がって来る。

果てしなく広い空は解けていきそうに青く、その下を田園風景がどこまでも続いていた。

虫の音、川のせせらぎや、木々をざわめつかせる優しい風。

いつも日が暮れるまで遊んだ幼馴染たちの顔。

忘れる事の無い漏れの故郷。

 清行

「帰ってみようかな」

……

それが昨日の事。

早速、漏れはアイツに連絡を取ってみた。

電話番号は変わってなくて、電話口に出たアイツは何だか照れくさそうだった。

そして、漏れはその日の内に家を飛び出していた。

 清行

風鳴町かぜなりちょうからバスに乗って1時間……。あとちょっとかな」

肌寒い位に冷房が効いたバスの窓からは、同じ様な山の景色が続いていたけど、なんとなく、もう少しで目的地に着く事が分かった。

 清行

「うう、それにしても寒いな。何で田舎の乗り物って冷房をキンキンにかけるんだろう?」

それでも冷えてしまいそうな体温とは裏腹に、久しぶりの故郷を前にして、漏れの胸は熱く高鳴っていた。

皆、元気かな。

話では誰も引っ越したりせずに、同じ高校に進学したって聞いたりしたけど、会いに行こうなんてぜんぜん思いつかなっかたよ。

もっと早く帰って来れば良かったな。

早く皆と会いたいよ。

村は今どうなってるのだろうか。

ピンポ~ン

 運転手

「次は~、水郷、水郷でございます。お降りの方はお近くの停車ボタンを押してください」

 清行

「はい、降ります」

あと1分、いや数十秒で故郷に帰れる。

何だか嬉しくて、穏やかで、楽しくて、はずかしいような気持ちが混ざった不思議な気分。

早く、早く、もう待てないよ。

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