「ケッシン」

 歩美は俺と違ってよく告白されてたよ。

 小学生のときで5回ぐらいあった。

 何組の誰々だれだれが歩美に告ったとか、そんな話聞くたびに心臓がドキドキしてた。

 それでいつも結果聞いて、ああ良かったーってホッとしてたんだ。


 中学になると先輩とかまで告りに行くからすごくてさ、中学時代は6回くらい告られてたんじゃなかったっけかな?


 それ全部他に好きな人がいるってことで振ってたらしい。


 それが誰なのかをみんな探ってたね。アイツじゃないかとか言っていろんな予想してたけど、結局中学時代はそれが誰なのかもわからないまま終わっちゃったね。

 俺はクラス違ったってのもあるけど、相変わらずほとんど何も話せないまま卒業迎えちゃったんだ。

 まあ、高校が歩美と同じところだったから、それについてはあまり気にしなかったけどね。


 追っかけたっていうと違うよ。成績が同じくらいだったから、偶々だったんだ。

 でもまぁ、受験する高校が同じだと思うと、すげー勉強頑張ったね。ポケモンやる並みに頑張った。上のランクの高校でも良かったんじゃないかって担任に言われたぐらい頑張りすぎてた。


 歩美は高校に入っても相変わらずでさ、入学当初から男子はみんな騒いでたし、一ヶ月もしない内に告白されてた。


 騒ぐのも無理ないよ。

 高校生にもなるととびきりの美少女になってたからさ、しかも相変わらず振りまくってて、卒業するまで何人斬りするんだろうかって友達と話してた。


 ……それで内心、俺もその内の一人に入るんだろうなって思ってた。


 ……うん。いいかげん俺も勇気を出したよ。

 高校生活も残りわずかだったからね。

 さすがに大学は一緒になれないと思うから、もういいかげん行かなきゃって思ったんだ。ずっと抑えてたけど、もう笑われてもいいって玉砕覚悟だった。


 歩美は絵が上手かったから中高と美術部だったんだ。結構熱心にやってたから、放課後遅くまで絵描いてたことが多かった。

 それで告りに行く日は部活サボって、美術室の近くにある教室で歩美の帰りを待ってたんだ。


 もういいかなって思って行こうとしたらさ、俺よりも先に告白しに来たやつがいてさ。その現場を見た途端慌てて隠れたよ。

 そいつ陸上部の有名なイケメンだったからさ、ドキドキしながら聞き耳立ててた。それでこれはもう告る前に終わったかなって思った。


 そうしたらそいつもフラれたんだ。

 そのときはホッとしたんじゃなくて、ビックリしたよ。

 あんなイケメンでも無理なのかって、しばらくボーゼンとしてた。


 それで告白する前から俺自信無くしちゃって、一回家に帰ったんだ。

 俺なんかじゃ到底無理だと思った。

 フラれても仕方ないとは思ってはいたんだけど、小学生の頃からずっと片想いしてた女の子にフラれたときのことを考えると、立ち直れそうにない気がしたんだ。


 ふつーに俺ブサメンだからさ、自信なんて少しもなかったよ。女子に告白されたことなんて一度もなかったし。


 だから……どうしようか部屋の中でずっと考えてた。


 その日は飯も食わずに、一睡もしないで考えてたけど時間が足りなくてさ。それから一週間くらい学校にも行かなくなった。

 もちろん親に凄い怒られたよ。でも考えすぎたせいで何て怒られてたのか全然思い出せないんだ。

 それぐらい頭の中は考え事でいっぱいだった。間違いなく今までの人生で、進路のことよりも考えてたよ。


 それで、ようやく決心して行動したんだ。


 もちろん放課後の、人気のない時間帯を狙って歩美のことをずっと待ってたよ。

 他の人に見られたくなかったから、凄い緊張した。


 幸いなことに誰も通らないまま、帰宅しようとする歩美の姿が見えた。

 大分暗かったけど、歩美の姿は絶対に見間違えることはなかった。

 見た瞬間震えたけど、躊躇ためらっちゃダメだって勇気を出して行ったよ。

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