第5話追い詰められて

「背中毛むくじゃらでやんの。だっせー。」 

 子供らの無礼な態度に、クマは激怒して我を忘れてしまった。

「ガオーツ」という雄たけびとともに、着ぐるみを脱ぎ捨て、

堂々たる体躯のツキノワグマの姿があらわになった。

 悪ガキどもはキャーキャー叫びながら転がるように逃げて行った。

「あーあ。だから言わんこっちゃない。正体がばれちゃったから

 どんな目にあわされるかわからないよ。早く隠れなきゃ。」

とブーブ君が言うと、

「うるせえ!耳の中でごちゃごちゃいうんじゃねえ!」

とクマにどやされて黙ってしまった。

 間もなく、パトカーのサイレンが鳴り響いてこちらに近づいてきた。

「クマが出没しています。皆さん、家の中から出ないでください。」

と拡声器で付近の住民に呼びかけている。

 クマはパンダの着ぐるみをまた着ようとしたが、乱暴に脱いだので裂けていた。

仕方なく木の上によじ登ったが、

「いたぞ!あそこだ!」という声とともに、

銃を持った大勢の警官に取り囲まれた。

 クマはもともと血の気が多い性格だったので

「おら!かかってこい!てめえらみんな、ぶっ殺してやる!」

と叫んで飛び降りると仁王立ちになり、

鋭い爪のついた前足をふりかざして攻撃しようとした。

「凶暴な人食いクマだな!撃て!」

と一人がいうやいなや、一斉に銃口が火を噴いた。

 クマがどうと音を立てて地に倒れたとたん、

耳の穴からイノシシがすごい勢いで飛び出して警官が何人かなぎ倒された。

「なんだあれは?撃て!」

と叫んで警官たちはブーブめがけて発砲してきたが

死に物狂いでイノシシは住宅地の中に消えていった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る