ノスタルジー

ぴおに

第1話



無風である。



天からは太陽が

地からは照り返しと

蒸し上がる陽炎が

じっとりと体に張り付く。

蝉の声しか聞こえない。



玄関に入ると

余りの落差に目の前が真っ暗になる。

外は、周りが白むくらいに明るい。

しばらく小上がりに腰かけて休む。


「ただいま」


まだ汗は引かない。

風はないが

屋内はしっとりと冷たい。

奥へ向かうと

障子が開け放たれ

縁側から青紅葉がみえる。

真っ暗な中に四角に浮かぶ

まるで絵画のようだ。


ランドセルを降ろし

背中に張り付いたシャツを剥がす。

はたはたと振って風を送る。



「あら、お帰りなさい。

暑かったやろ。素麺おあがり」



よく冷えた麦茶の氷が

カラカラと音を立てる。

喉を鳴らして飲み干し

団扇で扇ぎながら

氷の入った素麺をすする。


ちりん…


ようやく

風鈴が鳴った。



小3の夏

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