第3話溜飲が下がった

 というのは大変上品ぶった言い方だと告白せざるを得ない。

 心の中では因果応報、へっざまみー、と腹を立てている。

 そんなわたくしの今朝のお話。


 本当に何が楽しいのかと思われてしまうであろうから、淡々と語る。

 朝目が醒めると、ピアノの音がした。

(おかしい。我が家のピアノは妹が花嫁道具として持って行ったはず。それに鍵盤が少々軽いようだし、リビングにそう簡単にピアノが入るわけがない)

 はたしてそれはテーブルの上にあった。

 キーボードか? 違う。

 平たい、3D感が全くない。

 だから珍しく思って近寄って見た。

 父が農作業でごつごつした指で音階を弾いている。

「うん、これはいい。もらおう」

 って言うけれど、母が

「いや、もらったんだけど、グループホームに譲るって言っちゃったから」

 と言った。

 母はもらったお菓子も(飴もクッキーも)家庭に持ちかえって家族に譲ってしまう。

(今度はローリングピアノかあ)

 一呼吸入った。父は物が手元にある人間が偉いと思っている。だからピアノが手元にあるのは名誉だと感じていたのだろう。

 すかさずわたしが「簡単な作曲法、教えようか?」と言ったのだ。

(高校で音楽授業を選択してたら教えてもらえるのだが、黒鍵だけで弾くと、どんなにでたらめに弾いてもメロディーになるのだ)

 父は「うるさい!」

 と怒鳴った。

 この人は。

 いつ何がきっかけで気分を悪くするかわからない人である。

 そしていつわたくしに「うるさい!」と唾を吐きかけようかと待ち構えている節がある。

 その後、朝食の席で彼が何を言っても、(「アサハラショーコーがよう」「浅原チヅオの骨がね」「引き取り手がさ」何度も同じ話題で気をひこうとしたが)

 誰も、反応しなかった。

 だから、ザマアミロなのです。

 父はかわいそうな人だから、いじめっ子だから、無視されているのです。

 かわいそうね(笑)

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