第6話 掃除屋

 世界と異世界の狭間に存在するこの空間。俺の世界とリューカルさんの世界、それぞれの部屋を反映したこの部屋は普通に汚れるし普通に埃が溜まる。なぜそこは現実的なのだろうか……だがまぁ、汚れっぱなしというのは嫌なので、俺はあるものを手に入れてきた。


「ふぉおおおおおお!?何ですか!?トーヤさんこの生き物何ですか!?」


 今日、俺が持ち帰ったものをリューカルさんはそれはもう子供のように目を輝かして見つめている。確かに、これは見てて面白いよなぁ。でもそれは生き物じゃありませんよ。

 それは、俺が同僚からもらい受けたもので、同僚曰く、最新型を買ったからその古いの捨てるとのことで……まだまだ現役なそいつを捨てるのをもったいないと思った俺はそれを引き取りたいと申し出た。金を払うつもりはあったが、その同僚は「いつも助かってるし、お前ならただでいいよ。」と言ってくれたのでありがたく貰ったのだ。そして今に至る。


「落ち着いて、リューカルさん。それ、生き物じゃない。お掃除ロボットだよ。」

「ロボット……!?あれですか、ゴーレム的なあれ!」

「そうそう、ゴーレム的なあれ。」


 ゴーレムは確か、魔力で動くらしいが、科学の世界で生きる俺からしたらそちらのほうがすごいと思うのだが……リューカルさんからしたら科学のほうがすごく見えるらしい。隣の芝生は青く見えるってやつなのだろうか?

 それはさておき、お掃除ロボット――商品名はロンバ――は、さっそく仕事に取り掛かり部屋のごみをどんどんと吸い込み、リューカルさんはその光景を目で追っている。

 まぁ、見てて面白いというのは良く分かる。ロボットが当たり前の世界で生きている俺でさえロンバの動きは見ていたくなる。……でもね、リューカルさん注目しすぎて邪魔になってるから。ちょくちょく当たってるから。



 ロンバを導入した次の日。リューカルさんが、嬉々とした顔で入ってきたかと思うと1つの木箱を机の上にドンと置いた。何これ。


「トーヤさんトーヤさん!面白い物持ってきましたよー!」


 あの、リューカルさん。これ動いてるんだけど?がたがた動いてるんですけど?明らかに生き物入ってるよね?え?命が安い世界の生き物持ってきたの?思わず後ずさりする俺は悪くない。


「え、待ってトーヤさん!怖くないです怖くないです!これ、私の世界では掃除屋って呼ばれてる存在なんですよ?」

「掃除屋?……命的な?」

「ピカピカにする的な掃除屋です!」


 それが本当なら大丈夫……なのだろう。というか、リューカルさんが竜なんだから滅多なことにはならないだろう。リューカルさんの世界の竜の強さは知らないけど。

 開けてみて下さいとリューカルさんが勧めるので、俺は恐る恐る及び腰で木箱のふたをそっと開けた。そこには……


 青いゼリーがあった。

 っ!いや、違う!この青いゼリー、動くぞ!?ということは……!


「スライム!?」

「その通りです!スライムです!」


 おぉ、これが夢にまで見たファンタジー世界屈指の雑魚または最強に曲者な魔物の代名詞、スライム!作品によっては魔王になったりむふふなことに使われたりする奴だ。こうしてみると……いや、本当にプルプルしてるなこいつ。なかにピンク色の球があるが、これが核というやつなのだろうか。


「ふふふ、しかもこのスライム、ただのスライムじゃないんですよ?なんと!ハイスライムなんです!」

「ハイ?上位種みたいなもの?」

「その通り!ハイスライムは普通のスライムに比べて知能が優れているんですよ。人の言語も理解できるから掃除用として飼われてることが多いんですよ。」


 どうやらリューカルさんの世界のスライムは、他のスライムの類に漏れず、雑食のようで何でも食べ、栄養にすることができるそうだ。基本優秀で、マイナスな点があるとするならハイスライムになれる個体が少なく、それに合わせて値段もお高いらしい。なんでリューカルさんがその希少なスライムをどうやって持ってきたのかと言うと……


「買いました。私の印税で。」


 ……儲けてるんですね。


「それじゃ早速その動きを見てもらいましょう!」


 リューカルさんが何やら指示を出すと、ハイスライムはプルプルと震え、コンビニの袋やティッシュといった色んなごみが入ったゴミ箱へぽよんぽよんと向かったかと思うと、その中に入っていった。

 面白そうなのでのぞき込んでみると、おぉ凄い。ハイスライムに取り込まれた袋やらがどんどんと溶かされ、少しした後には綺麗さっぱりなくなっているではないか。これは見てて面白いな!


「掃除用に調教されたハイスライムは、ごみとごみじゃないものをちゃんと認識して溶かす溶かさないを判断することができるんですよ。しかも人には襲い掛かりません。あ、泥棒とかには襲い掛かりますよ。」


 頭いいなハイスライム……おや、ハイスライムとは反対の方向で掃除してたロンバの向かって行ったぞ?何をするつもり……あ、体当たりした。あ、ロンバに押し返された。あ、ちょっと潰れた。


「ねぇ、リューカルさん。あれ何。」

「あー……ハイスライム、ロンバに勝負を仕掛けましたが、押し負けてロンバを上位存在と認識したみたいですね。」

「あれ勝負したのか。」


 ロンバ、意図せずハイスライムの兄貴分みたいになったみたいだな。そもそも意図するAIは……無いよな。

 その後、ロンバの上に乗ってぽよぽよ弾むハイスライムをたびたび見かけるようになった。大型犬の上に乗るネコかお前は。

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