知っています

かわいいってのはひとつの才能だと思う。

鏡のなかに映る自分の容貌はとても、とてもかわいいと思う。

黒く、長くのびた髪。まっすぐにのびたそれは、きっとシャンプーのCMのモデルにだってなれるだろう。

大きな黒目がちな瞳。

形のいい鼻。

あつめの唇。

パーツがよくても、バランスがよくなくては意味がない。

我ながら私の顔は、そのバランスが抜群だと思う。

美人でかわいいっていうのはやはり、ひとつの才能なのだ。

足が速いとか記憶力があるとかと一緒だ。

なのに世の中は、女性を外見だけで判断するのは差別だという人がいる。

なんだか全体的にそんな流れになっている気がする。

嫌だ、嫌だ。

世の中には、私のように外見だけで判断してほしいと思う人間もいるというのに。


私はいつも早めの電車に乗り、通学している。

制服は今時珍しいセーラー服。

でも、結構気にいっている。

清楚な私にはぴったりだと自画自賛したい。

電車のなかは、いつも同じような人たちがいる。

私が乗ったときには、ほとんど人はいない。次の駅でスーツの人とジャージにヘッドホンの人が乗ってくる。

そして、会社員の女のひと。

この人はいつも車内でメイクしてたのだが、最近は途中の駅からするようになっていた。

どうしてかは知らない。

正直、人のことには興味がない。

興味があるのは自分だけ。

かわいい私だけ。


私はいつも車内で本を読んでいる。本には布製のブックカバーをつけている。

他人からみたら、文学少女に見えるだろう。

でも、中身はBLだけどね。

人は人のことをほとんど外見だけで判断すると思う。だから、私は、イメージ通り清楚な文学少女を装う。

装っていれば、人は簡単に騙せる。

誰も車内で堂々とBL小説を読んでるとは思わないだろう。

少し、たのしい気分だ。

人を騙すのなんて簡単。


こんなにかわいくて美人な私は有名になるべきだと思う。

以前、何かのイベントでコスプレっぽいことをやったとき、カメラを持った人がいっぱい集まって行列になった。

人に見られるってのは気持ちがいいものだ。

何かになるってのも嫌いではない。

いや、好きなほうだ。

だれかに認められるのはもっと好きだ。

誉められて、認められたいっておもうのは人間なら当然じゃないかしら。


いつものように電車の椅子に座り、BL小説を読みふけりながら文学少女を演じていると、スーツ姿の男が私に近づいてきた。


なにかぶつぶつ言っている。


怖い。


「やはり、おれにはこの方法しか思い浮かばない」

と言った。


私にはなんのことかわからない。


スーツ姿のひとは鞄から大きな大きなナイフを取り出すとそれを自分の首にあてた。


「こんなのはなしだ」

ジャージの人が飛び出して、止めようとした。でも無理だった。すごい力でジャージの人をはねのけた。彼はゴロゴロと電車の床を転がった。


スーツ姿の人は私に近づく。

何故か笑っていた。

「これで変わるはずた」

そう言うと首にあてたナイフを一気に引き下ろした。

赤い血が吹き出し、私の顔と大事な制服を染め上げた。

実は、意外と私は冷静だった。

吹き出す血がきれいだと思った。

でも、私は演じた。

思いっきり悲鳴をあげた。

そういうのが私のキャラだと思うから。


そのあと、かなり大変だった。救急車で病院に運ばれ、警察にいろいろ聞かれた。

次はマスコミだった。

新聞、テレビ、週刊誌。記者を名乗る人たちからの質問攻め。

正直、あの男の人が死んだ理由なんか何も知らない。

私は適当に話を合わせた。

「君、美人だね」

記者の一人が写真をとりながら言った。

ええ、知っています。

私は心の中で言った。

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