第5話 優しさが怖い

 小さなタンスにシングルのベッド、家具はそれだけ。小さな窓がひとつ。


「とりあえず今日はこの部屋を使ってくれ。数日中に部屋を整える。希望はあるか?」

 この部屋はゲストルームのようだ。

 最低限の物しか置いてない。

「部屋の希望よりもユリウスの目的は何? 取り繕うかのように優しくされると逆に物凄く怖いんですけど」

 私を殺ろうとしていたのはなんだったのか。

「こちらが歩み寄ろうとしているのに君はずいぶんと失礼だな。城にいないと思えば家を借りる手続きをしようしているし。君こそどうなっているんだ! 君は私と結婚したんだぞ」

 イライラしてるのが口調でわかる。

「いやいや、夫婦にどんだけ夢を見てるのよ」

「お前のせいで夫婦に夢を見れなくなって、辛い現実と向き合いながら、それでも二人の関係を少しでもよくしようとしているんだ!」

 お前のせいだろと言わんばかりにこちらに向けられる彼の左手の薬指にはしっかりと指輪がはまっていた。


 ユリウスの剣幕と状態から推測するに結婚は本来はとても特別なことなのかもしれない。




「ユリウスさん、落ち着こう」

「あぁ、落ち着いているとも。こうなったからには、神に誓ってしまった愛に背かず、受け入れて生きていこうじゃないか。君も私も……」

 完全に目が座っていらっしゃる。



 その後しばらくすると、ユリウスはあのいつもの部屋にこもるのが仕事のようで、『夜には戻る』とだけ言い残して家から出て行ってしまった。



 私はどうすればいいのだろうか。

 とりあえず、私の持ち物とかどうなっているのだろう? と疑問が出てくる。

 いつか家を購入したら置くんだって買ったイケメンのマネキンシリーズなんかはどこにいったのだろう。

 装備品は身につけてるとして、回復のポーションなどはどうやってるのか。


 その疑問はすぐにとけた。

「空間収納に入れれば持つから、30本買ってくれれば3本おまけしちゃう」

 と焼き鳥を売っているおばちゃんが言ったのだ。



 それから私はすぐに家に戻って、空間収納どうやったら使えるの? と試行錯誤した結果。

 口に出すことでステータスのように目の前にアイテム一覧表が出てきた。

 どうやらこの部屋が私の部屋のようだし、好きにしよう。

 とりあえず邪魔だから今ある家具は空間収納にしまってっと……。


 一番の大物である、ベッドを取り出す。

 これがなかなかの代物だ。頑固なドワーフのクエストクリア報酬品で細やかな飾りが施されている。

 ベッドを真中にドーンと置いてみて。

 とりあえず、マネキンがどうなっているのか気になったので取り出してみた。



 これが、凄い。まさに匠だったのだ。

 ゲーム内では、これに装備しない装備品をつけて部屋に飾っておくしか使い道がなかったのだけれど。

 部屋に置いといて大丈夫かな? レベルのできなのだ。

 すごい見られている感じがする。


 一人一人違う顔で、芸術性の高い素晴らしいできだが、部屋に並んでると怖いと思っていたけれど。装備品を飾るとなかなか見栄えがよくなる。

 こっちの装備品のほうが似合うわよね、こっちはドロップするまで粘ったっけ? とかいろいろ考えながらずらりと並べた結果。



 帰ってきたユリウスは、

『ひぃ!』

 と声を上げた後、これがすべて精巧なマネキンであることを知り、私をものすごく怒ったのだった。


「こんな本物が石にでもされたような精巧な出来の人型の物を部屋にいくつも並べるんじゃない。何を考えているんだ恐ろしい」

 を始めとして、小言を沢山言われてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る