第36話 体育祭文化祭 リレー練習編2
体操着に着替え、グラウンドに出た俺たちは、隅っこの方でストレッチを始める。すると、美来が疑問を投げてきた。
「あ、てかさあ、リレーなんだよね? バトンどうすんの?」
すると、如月さんは、ストレッチを中断しながら、美来の方に視線を向ける。
「ちゃんと用意してるよ」
そう言ってカバンから二つの棒を取り出した如月さん。見たことのある形状。あれは……
「それって、ラップの芯……?」
念のため聞いてみると、如月さんはニヤリと口角を上げた。
「そうよ。ピッタリでしょ?」
自慢気な如月さん。その横で、九条さんと雪村さんは、目を輝かせ感心していた。すると、春輝がみんなの中心へと出ていく。
「よし。そんじゃあ、始めよっか。折角だし、チームに分かれて勝負しようぜ」
その言葉に、如月さんの目が鋭くなる。その闘志に溢れた目の奥は、燃え上がっているかのようだった。
「いいよ。それじゃあ折角だし、負けたチームには、何か奢ってもらおうかな」
その言葉に、春輝の口角が上がる。
「いいね。やっぱ、やるからには何かないとな」
やる気溢れる表情を向け合う二人。意外だけど、似たところがあるのかも。と、その様子を眺めていると、眉間にしわを寄せた美来が横にやってきた。
「絶対負けない」
「お、おう……。頑張ろうな」
そしてチーム分けが始まった。チーム代表は、俺と春輝。女子四人にはグーとパーで、二人ずつに分かれてもらった。その結果……
「桐崎くん! 頑張ろうね!」
脇を締めながら、満面の笑みを浮かべる九条さん。一緒のチームだなんて、最高だっ!
と、喜びを噛み締めていると、美来が九条さんの横に立つ。
「九条さん、頑張ろうねっ! あっ、冬馬、マジで走ってよね。負けたら、マジであれだかんね」
九条さんに優しい笑みを見せたと思ったら、急に厳しい顔を向ける美来。『マジであれ』と言われてもよく分からないが、負けるとヤバイということだけは伝わってきた。
春輝チームは如月さんと雪村さん。結果的に良いバランスになったと思う。
しかし……春輝はかなり足早いしな。如月さんも早かったしな。雪村さんは、未知数……。だが、こちらには、美来がいる。頑張れば勝てる……!
と、考察していると、九条さんが春輝と如月さんの元へ。
「勝負の前の練習はする?」
「そうね、少し走っておいたほうがいいかもね」
と、如月さんが質問に答えると、九条さんは、俺の方へ向いた。と、その時だった。如月さんが、九条さんの後ろから抱きつき始めた。
「ううっ……。桃華と同じチームが良かったのにぃ!」
「ゆ、結衣ちゃん?!」
慌てふためく九条さん。その後ろから、如月さんは、顔だけを出して、俺を睨み始めた。そして好感度を1下げる。なんと言うか、流石に酷いと思う。
そして始まった練習。まずは、グラウンドの端っこから中央までを軽く走って、ウォーミングアップ。それを何回か行って、また隅っこに集合した。
すると、雪村さんが、人一倍疲れた顔をしていた。それを見た九条さんが、心配そうに雪村さんの背に手を添える。
「大丈夫?」
「えっ! だ、大丈夫! でも、ちょっと疲れちゃいました……」
そう言って苦笑いを浮かべる雪村さん。それを見た九条さんは、心配そうな顔を俺に向けた。
「少し、休憩しよっか! そしたら、勝負始めよっ!」
声を張ってみる。すると、春輝達は快く頷いてくれた。
さて、休憩が終わったらリレーかあ! 中学の時の運動会には無かったしな。ちょっと楽しみ。
と、石階段に座りながら、そんなことを考えていると、九条さんが横に座った。
「今日はありがとっ!」
「ん? どした?」
急にお礼を言われ戸惑っていると、九条さんは口角を上げながら、視線を落とす。そして、膝を抱えると、体を揺らし始めた。
「みんなと一緒に、練習できて嬉しいの。こんな大勢でワイワイするの初めてだから」
「そっか! 俺も超楽しい。その……九条さんと同じチームで、その……更に嬉しいっていうかさ。あはは……」
恥ずかしい。照れながら、チラッと九条さんを見ると、九条さんは眉を八の字にして、見つめ返してくれた。
メーターも真っ赤で、バーいっぱいいっぱいになっている。
と、甘い時間を過ごしていると、目の前に影が。前を向き、見上げてみると、鬼の形相の如月さんがいた。
「休憩終わり。ヤルよっ!」
「は、はいっ!」
あまりの気迫に、勢いよく立ち上がってしまった。それを面白がってかは分からないけど、九条さんは可笑しそうに、小さく笑ってくれた。
そして、やってきたリレー勝負一本目。グラウンドの横幅いっぱいいっぱい使って、それぞれの配置に付いた。
第一走者は、美来と如月さん。第二走者は、九条さんと雪村さん。最終走者は俺と春輝といった感じだ。
スタートの切り方は適当。九条さんが声を張ってくれることに。
「よーい、ドンっ!」
九条さんの声が響くと、美来と如月さんが地を蹴った。やはり二人とも速い。ほぼ互角といった具合だった。
だが、そんなことよりもだ……。
遠くからでも分かる、二人の圧。さながら獲物を追いかける肉食獣のようだった。
そして、バトン……もといラップの芯が、ほぼ同時に第二走者へと渡される。
さて、速さはというと……。遅く感じてしまう……。さっきの二人を見たせいだろう。
一生懸命な顔で走る九条さん。対照的に、雪村さんは、あまり表情が変わっていない。
そんな様子に違和感を覚えていると、九条さんが近くにやってきた。
「桐崎くんっ!」
バトンを受け取る。連携というか、何かを一緒にするって、楽しくなっちゃうな。
と、緩みきった感じで受け取っていると、春輝もバトンを受け取り、走り始めていた。
勢いよく地を蹴り、一気に進んでいく春輝。
い、いや、勝てるわけねえっ!
だが、やるからには全力! 歯を食いしばって、春輝の背中を追うも届かず。俺たちは負けてしまった。
グラウンド端のネットに、体を預けヘタリ込む。すると、春輝が手を差し伸べた。
「お疲れさん」
「いや、速えよ」
息を切らしながら言うと、春輝は楽しそうに笑った。すると、九条さん達もこちらにやってきたのだが、何やら雰囲気が悪そうだった。
「ちょっと、真面目に走ったの?」
機嫌の悪そうな如月さん。その鋭い視線を向けられている雪村さんは、頬を膨らませていた。
「ちゃんとやりましたよ。っていうより、何でそんなこと言われなきゃいけないんですか?」
「あのね、見れば分かんのよ。あっ、手抜いてんなって。桃華に失礼よ」
睨み合う二人。その後ろで、九条さんは戸惑っていた。美来はというと、呆れた様子で、ため息をついている。
「な、何があったんだよ」
場をおさめようと、腰を低くして二人に近づく。すると、如月さんの鋭い目が、こちらを向いた。
「桐崎、あんたの目から見て、雪村さんどうだった?」
「え? ど、どうだったって?」
「全力だったかって聞いてんの!」
「えっ、いやぁ……それは……」
思い出してみる。一生懸命だった九条さんと比べると、なんか余裕そうだったというか……。
如月さんと雪村さんの視線が痛い……。
正直、どちらかの肩を持つなんてしたくないけど、有耶無耶にすることもできない。
「ま、まあ、どっちかっていうと、雪村さんは少し余裕がありそうだった……かな?」
と、口角を引きつらせながら答える。すると、如月さんの眉が吊り上がった。
「やっぱりね。おかしいと思ったのよ。走ってる途中、桃華のことチラチラ見てるし、肩並べて走ってるし」
如月さん、熱くなりすぎだな……。雪村さんが、九条さんを馬鹿にしていると勘違いしているのかもしれない。
と、心配していると、雪村さんがこっちを向いた。頭上の好感度は50にまで下がってしまった。
「別にいいじゃないですかっ! 勝ったんですし!」
うっ……。やっぱり、中立が良かったかもしれない。
と、後悔していると、春輝が輪に入ってくれた。
「まあまあ、一旦落ち着こうぜ。ここは、気持ち良く冬馬にジュース奢ってもらってさ」
「えっ?! 俺一人に?!」
まさかのご指名に驚くいていると、みんなは笑ってくれた。さすがは春輝だな。
けど、雪村さんだけは、少し浮かない様子だった。
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