第14話 プレゼント

 翌朝。なんか目覚めが悪いような……。睡眠の質が低かったのだろうか。活力が湧かない。


 重い体を起こし、リビングに行くと、母さんが楽しそうな声で俺を迎える。


「冬馬、誕生日おめでとー」


「どうも」


 はぁ……誕生日か。めでたい気分にはなれないなあ。


 ため息をつきながらテーブルにつくと、母さんがポチ袋を突き出す。


「ほら誕生日プレゼント。欲しいものないって言ってたし、これが一番でしょ?」


「あぁ、ありがとう」


 そう生返事をすると、母さんは不思議そうな顔をする。


「要らないなら返してくれてもいいよ?」


「いや、ありがたく頂きます!」


 それから朝の支度を済ませ、外に出る。すると、玄関前に美来が立っていた。


「よっ! おはよー」


「元気だな。おはよ」


「どした、どした? 今日誕生日でしょ? バンザイでもしたら?」


「そんな気分じゃないよ。って、春輝は?」


「先に行ってるってさ。ささ、行きましょっ!」


 やけにテンションが高い美来が前を歩いていく。昨日の騒がしさは、どこへやら。そんな未来を見て思う。いかんいかん、沈んでてもしょうがないだろ。美来みたいに元気元気!


 そして学校に着いた俺は、教室に入るなり自席に勢いよく座る。すると、春輝がやってきた。


「おはよ、冬馬」


「おっす」


 いつもなら元気よく手を挙げるところだが、今日は気怠げに言ってしまった。すると、春輝は不思議そうな顔をする。


「どうした? 体調悪いか?」


「い、いや! 大丈夫!」


「そっか。あっ! 冬馬、今日の放課後、予定ないよな?」


 急に思い出したかのような口ぶりの春輝。そんは慌てて聞くことでもないだろうに。


「ないよ。なんかあるのか?」


「まあな」


 そう言って春輝は微笑んだ。すると、スマートフォンから、通知を知らせるバイブ音が鳴った。ポケットから取り出せば、九条さんからLaINが来ていた。


【桐崎くん、おはよ! 今日の放課後、少し時間貰えないかな?】


 放課後か。朝のうちにわざわざ連絡するのは、どういうことなのだろうか。取り敢えず返信しなくては。


【いいよ!】


 送信。はあ……九条さんとの距離の取り方、どうすれば良いのか。期待のしすぎや、欲の張りすぎは、時に自分を傷つけるもんな……。


 だからと言って、距離は取りたくない! 美来が言っていたな。当たって砕けちまえ。傷ついてもお釣りはくる。そのスタンスでいけばいいじゃないか。仲良くできるだけで良いじゃないか!


 なんかそう考えたら、ちょっとは前向きになれた。と、そんな自己暗示のおかげか、授業は難なく乗り越えることができた。そしてとうとうやってきた放課後。


 教室内で九条さんを待っていると、LaINが一通やってきた。九条さんからだ。なんと空き教室まで来てほしいとのこと。


 ここじゃ駄目なのかな? 事情はよくわからないけど、取り敢えず空き教室へ。すると空き教室に入ってすぐの所に九条さんが立っていた。手を後ろで組んで、モゾモゾと落ち着きない様子だ。


「九条さん、おまたせ!」


「う、うん!」


 口を真っ直ぐに結んでいる九条さん。何か言い出そうとしているけど、緊張している様子だ。


 いったい何を言われるんだ。俺も緊張してきた。喉を一回鳴らし、身構える。すると九条さんは、後ろに回してた手を前に突き出した。その手には紙袋が。


「き、桐崎くん、誕生日おめでとうっ!」


「えっ……?!」


 顔を真っ赤にして上目遣いをする九条さん。俺は固まってしまった。九条さん、何で俺の誕生日知っているんだ?! それにその紙袋、昨日春輝と買い物した時のやつだし!


「え、えっと、今日……だよね……?」


 俺が固まったままでいるせいか、九条さんは不安そうな声を出す。


「え、あ、いや! うん! 今日だよ!」


 そう言って俺は九条さんの前に行く。そして紙袋を受け取った。


「その……俺の誕生日、知っててくれたんだね」


 そう言うと、コクリと小さく頷く九条さん。すごい嬉しい。だけど、それ以上に安心感のようなものが心を覆った。モヤモヤとした気持ち。重くなった心が、スゥーっと晴れて軽くなる感じ。


 思わず笑みが溢れてしまう。すると、後方から扉が開く音がした。振り返ると美来と春輝が笑顔で入ってきた。


「冬馬、おめでと」

「おめでとー。良かったじゃん」


「お、おう! ありがと」


 と固い感じで返事をすると、春輝が不思議そうな顔をする。


「どうした? 嬉しくなかったか?」


「い、いや! めっちゃ嬉しい」


 嬉しいには嬉しいんだ。だけどもやっぱり安堵感のほうが勝る。と、それよりもなぜ九条さんが俺の誕生日を知っているかだ。


「あのさ、俺、誕生日のこと話したっけ?」


 振り返って九条さんに聞くと、九条さんが春輝に目を向ける。


「七瀬くんが教えてくれたの。それで相談ものってくれて」


 すると春輝が付け加える。


「まあ、そういうことだ。どうせならサプライズみたいにしようと思ってな」


「そ、そっか〜」


 それを聞いて、体の力が抜けた。昨日見た二人の買い物もその為。あー良かった良かった。


 そう気の抜けた顔をすると、春輝と九条さんは可笑しそうに笑った。その笑顔に俺もつられる。


「早速見ていい?」


「うん!」


 紙袋の中には包装された袋が入っていた。それを丁寧に剥がすと、中から手帳式のスマートフォンケースが出てきた。布製の藍色のケース。オシャレっぽい!


 嬉しさのあまり舐めるように見ていると、九条さんが照れたような口調で話しだす。


「ど、どうかな? 桐崎くんケースつけてないから、どうかなって思って。あっ! もしかして、あえて付けてない?!」


「い、いや! 付けますっ! 超嬉しいっ!」


 初スマホケース! 九条さん、目の付け所がいいなー!


 早速スマートフォンに装着してみる。そして、それを九条さんに見せて笑顔を向ける。すると九条さんも笑顔を返してくれた。


「九条さん、本当ありがと!」


「うん! そ、それじゃあ、また明日」


 そう言って九条さんは、手を小さく振って教室を出ていった。すると、春輝も教室を出ようとする。俺はそれを引き止めた。


「春輝! ありがと!」


「おう」


 そう言って微笑んだ春輝は、教室を出ていった。それ続くように美来も歩きだす。俺は美来も呼び止めた。


「美来! これで解決だな! ってか、知ってた?」


「まあね。昨日の夜、春輝に聞いちゃったんだよねー。いや、本当に良かった」


 結局、聞いたのかい。まあ、美来はそうするだろうな。しかし、本当に良かった。デートなんじゃないかっていうのも、俺の思い込みだったし。


 でも、今回のことで色々気づけた。俺は欲張りでいたい。九条さんともっと仲良くなりたい。その……できれば、男子で一番近い存在に……。


 なれるかなぁ……。いや、頑張るぞっ!

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