第51話逃亡

 中山はふらふらと住宅地をさまよい歩いていた。


デザインがファッショナブルな上,血みどろになっている制服では目立つので


ゴミ捨て場で拾った,男物のグレーのフード付きの


トレーナーとジーンズに着替えていた。


ちょうど翌日が資源ごみの回収日だったのが幸いした。


人並み外れて大柄な上に,髪を刈り込んでいるので,


誰がどう見ても男性にしかみえなかった。


 家にはもう帰れなかった。あの後すぐ家に帰ったが,すでに警察に


サイレンを赤く光らせたパトカーが何台も止まって人だかりがしていた。


自分を逮捕しに来たに違いないと気づき,誰にも気づかれないうちに慌てて


逃げてきたのだった。


 きっとしずくは死んだに違いない,


自分は殺人犯として追われる身になったのだと


思うと中山は情けなかった。遺書めいた文章まで置いて自殺にみせかけたのに


こんなにあっけなくばれてしまうとは思わなかった。


偽の遺書は自習室に閉じ込められた際に絶望したしずくが


ノートに走り書きしたものを中山が無断でカバンを漁って盗んだのだ。


 近くの民家からテレビの音が漏れてきたのを中山は聞き逃さなかった。


「たった今入ったニュースです。今日○○市の中学校で,


 一年生の女子生徒が転落して意識不明の重体になっています。


 被害者は当初意識があり,同級生の女子生徒に


 突き落されたと述べていたということです。


 転落した女子生徒はもみ合った際に加害生徒の指をかみ切ったため、


 加害生徒はケガを負っている模様です。


 警察では現在,この同級生が何らかの


 事情を知っているとみて,行方を追っています。」


「なんらかの事情を知っているとみて行方を追っている」という使い古された


フレーズに中山は身震いした。これは犯人だと断定されたも同然だった。


傷の痛みは一層増して,包帯代わりに巻いた,


ハンカチの切れ端は真っ赤になっていた。


警察ではおそらく自分が怪我をしていること


ぐらいとっくに把握しているだろうと中山は絶望的になった。


しずくが即死しなかったのは大きな誤算だった。あの高さから落ちれば小柄で


華奢な少女が生きていられるはずはないと高をくくっていたのに。


途中でショッピングセンターを見つけて軍手と変装用の帽子とマスク,


消毒薬にばんそうこうを買った。


店員が自分の顔を知っているはずはないのに,会計をしている間中,


うつむき加減で逃げるように店を後にした。


買った軍手をはめて傷ついた手を隠していたが,


怪我していることに気づかれたら誰だかわかってしまうと思うとびくびくした。


 ちょうどそのときお腹が鳴った。どこかで食料を調達しなければならない。


コンビニを見つけたので入ることにした。


知り合いに見つかる危険を覚悟で中山は店の入口に立った。

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