第47話死者への憎しみ

 しずくは郵便局を出て急いで帰ったが,

すでに自宅周辺を報道陣が取り巻いていた。

敷地内にまで入り込んでいる者がたくさんいた。おまけに野次馬も集まっていた。

「人の家に勝手に入ってる!何てあつかましいんだろ。

 見つからないように家に入るのはとても無理だ。

 ああだこうだ言われるのはいやだな。どうしよう。困ったな。」

 しばらくぐずぐずしていたが,意を決してしずくは記者や

リポーターの群れをかきわけて家に向かった。

すかさずマイクが何本も向けられた。

「由紀ちゃんのお姉さんですか?

 犯人が見つかったことについてどう思いましたか?

 何か一言お願いします。」

と1人の女性リポーターがまくし立てると

別のテレビ局の記者らも負けじとがなり立てた。

「加害者も亡くなっていますが,彼に対してどんなお気持ちですか?」

「加害者の少年とはクラスメートだったそうでしたが,びっくりしましたか?」

しずくは普段口が重い方だったが,

このときは自然と言葉が口からぽんぽん出てきた。

「妹を殺した奴がすぐそばにいたなんて思いもしなかった。

 もしわかっていたら,この手で殺してやったのに残念だ!

 これは事故じゃない!殺人だ!人間のクズだ!

 他の女共はあいつのことをカッコいいとか抜かして

 ちやほやしてたけど私は最初から気に食わなかった。

 あんな奴死んで当然だ!当然の報いだ!天罰が下ったんだ!」

 青白く,弱弱しい美少女が激しい憎しみをぶちまけるのを

目のあたりにしてみな呆気にとられた。

 しずくが家の中に消えた後,野次馬たちはささやきあった。

「あんな色白で華奢な女の子があれ程気性が激しいとは

 人は見かけに寄らないねえ。」

「殺したいなんて言葉がきつすぎる!」

「家族が殺されたんだもの,怒るのは当然でしょ。

 私はあのぐらい言ってやってもいいと思うよ。」

「しかも無免許で飲酒,ひき逃げでしょ。

 ここまで悪質なのもめったにいないよ。」

 日が暮れて夜になっても,記者たちは去らず,相変わらずわめいていた。

ガラス戸を叩く者までいてしずくは怒りを覚えた。

「あいつら,人の気持ちも考えないで無神経だ!」

 それから仏壇の由紀の写真に向かって犯人が見つかったことを報告した。

「よかったね。お前を殺した野郎も死んだよ。これで成仏できるね。」

 疲れていたしずくはソファでうたたねしたが,

あの日の光景を夢に見てうなされた。

大河を殺す夢も見た。それを見て由紀が笑いながら拍手していた。

 しかし刺し殺したと思ったのにそれは紙切れに変わってパタンと後ろに倒れた。

 一方、中山一は1人っきりで居間でテレビを見ながら

コンビニ弁当を食べていた。

弟の誕生祝に家族はみな高級レストランに外食に行ったが,大河の死に

動揺していてとてもディナーを楽しむ気にはなれず,留守番をしていたのだ。

「A県B市で去年起きた無免許と飲酒による暴走事故ですが,加害者の少年が

 去年起きた別のひき逃げ事件にも関与している疑いが強まり,

 警察では少年の家を家宅捜索する見込みです。

 更に加害者の少年と被害にあった少女の姉は

 同じ中学校に通うクラスメートでした。」

大河の起こした犯罪が取り上げられているので,一は耳をそばだてた。

 すると画面にしずくが出てきて,

大河を殺してやればよかったとコメントしたので

中山は怒りを覚えた。(しずくのコメントの後半はカットされていた。)

「おのれあの女,ミー君を悪く言って生意気な。死んだ人の悪口をいう

 なんてとても許せない!」

と息巻いて机の上の花瓶を床を叩きつけて粉々に割った。

床が水浸しになり,生けてあったバラの花びらが舞い散った。

「明日あの女をシメてやる!」

と中山は身勝手な怒りをしずくに対して抱いたのだった。

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