第36話色男、ふられる

 しずくは学校から帰るとすぐ,パソコンを起動した。

学校で入試の点数を告げてばかにされたことが

心に引っかかっていたので調べてみることにしたのだ。

インターネットで自分の通っている学校の名を入力して

調べてみると,なんとしずくが入学した年度の

合格者最低点が282点だったので仰天した。

「うそッ!わたし286点で入ったのに!入学したときの成績が

 ビリに近い順位だったなんて!」

 実はしずくは数学と理科が得意ではなく,学校のテストに出る問題は

授業内容からある程度予測がつくので暗記して

いい点をとっていた。しかし入試で出た問題にはそれが通用しなかったので

点数が伸び悩んだのである。

国語と社会で高得点をあげたので,なんとか合格できたのだ。

「ふん,そんなこといったって,うちの学校は

 元男子校だったのが共学になってまだ2年目だから

 女子生徒は1クラス10人で男子の半分より少ないんだぞ。」

としずくはぶつくさ言った。

「だいたいあの女共は前期試験で入ったんだぞ。」

しずくは4教科のテストを受ける後期試験で入ったが,

点が低いとあざわらった女たちは前期試験で入っていた。

前期は論文と面接があり,ほかに英語と数学のテストを受けるだけだった。

しずくは前期も受けたが数学が苦手なのと面接で

ぶっきらぼうな受け答えをしたせいで落とされていた。


 しずくが大河のことを泣かせたというニュースは

あっという間に広まった。中山一は大河のことを絶世の美男子だと

思っていたので,しずくが彼を邪険に扱ったことが不愉快だった。

「ミーくんほどの美男子に見向きもしないなんて!理解できない!

 あいつ,どっかおかしいんじゃないの!」と中山が叫んだ。

「あいつ,自習室に閉じ込められたとき,

 ミーくんに助けてもらったんだよ!お礼につきあうべきでしょ。

 恩知らずだよね。」

と中山はわざとしずくの席がある方向に

体を向けてしずくによく聞こえるように叫んだ。

例の二人組みはくすくす笑った。

(なんだい。それとこれとは別だろ。)

としずくはむかむかした。

授業が始まった。しずくは板書を一心不乱にノートに書き写していたが,

どうも誰かに見られているような気がして振り返った。すると

じっとこちらをにらみつけている中山と目が合ってしまったので

しずくは背筋が凍るような寒気を覚えた。

「おお気持ち悪い。授業中なのによっぽどひまなんだな。」

 この時間はしずくの得意な日本史だったので,

やがて中山のことなど忘れて集中し始めた。

 しかししずくは黙々と勉強に打ち込むだけで,

まったく誰かに興味をもっているそぶりを見せなかったので

中山はあせっていた。

 2日後,中山が悶々としていると,横山が話しかけた。

「中山さんのお兄ちゃんってかっこいいよねえ。」

 しずくは風邪気味で具合が悪かったが,平熱だったので

むりに登校していた。しかし今になって熱が上がり始めていた。

顔を真っ赤にほてらせているしずくを指差して,横山は

「ねえ,あれ見てごらん。真っ赤になってる。

 きっと中山さんのお兄ちゃんのこと好きなんだよ。」

 中山の兄はしずくが既に自分にほれていると思い込んでいた。

教室の外でしずくを待ち伏せしていたが,しずくが自分に

見向きもしないでさっさと通り過ぎていったのでがくぜんとした。

「仕方ない。もうあきらめよう。」

と中山兄は決意した。新たな獲物を刈る方が

限られたエネルギーを有効に使えると、この色男は

知っていたのである。

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