第20話恋愛に向かない

 小柄で体力のないしずくにとって

5,6キロはあろうかと思われるずしりと重いかばんを背負って

その上ゴミ袋までもって歩くのは苦行に等しかった。

「あ~あ,明日になったら噂が広まって何か言われるだろうなあ」

と思うとしずくは憂鬱だった。

「明日ずる休みしちゃおうかなあ」

 甲高い叫び声が聞こえたのでしずくはそちらの方に目をやった。

グラウンドでサッカー部の少年達が威勢のよい声を上げながら

サッカーの練習試合に励んでいた。みな自前のウェアを着ていたが

ゼッケンをつけて敵味方の区別をしていた。

「田中!パス!」という声が挙がった。

 田中と呼ばれたひときわ敏捷な少年の動きにしずくの目は釘付けになった。

田中は強烈なキックで一気にゴールしようとしたが,

それを途中で敵方の少年がすばやくボールを横取りして阻んだ。

そして彼は味方チームの全身朱色のスポーツウェアを着た長身の少年の方に

ボールを蹴った。ところが朱色男の動きは鈍く,

もたついている間にボールを敵に奪われてしまった。

「大河!何やってんだ!」

というヤジが飛んだ。

しずくは聞き覚えのある名前にぎくりとした。

「げっ!あいつ大河だったのか!あんなに目立つ派手な服を着てるくせに

 ひときわ下手くそなんだから始末に負えないや」

と心の中で毒付くとしずくはにやりとした。

「それにしてもダントツで下手くそだなあ」

とある意味感心しながらしずくは大河の動きを目で追っていた。

 すると選手の一人がその視線に気付いて大河に耳打ちした。

「おい,さっきからずっとあのかわいい子がおまえのこと熱心に見てるぞ。

 おまえのこと好きなんじゃないのか」と言った。

無我夢中でプレーしていた大河はあわててそちらに目をやると

愛しの君が笑みを浮かべて自分の方を見ている。

「ばんざ~い!やっとふりむいてくれた!」

と有頂天になった大河は

猛烈にボールを追いかけ始め,あげくの果てに,

「山野~!愛してる~!」

と絶叫したのでほかの部員たちは度肝を抜かれた。

「ふん!ばかめが!勘違い野郎め!今に思い知らせてやるからな」

と吐き捨ててしずくはその場を後にした。

が,幸か不幸か離れていたのでその言葉が大河には聞こえなかった。

「あの子行っちゃったよ。照れたのかな?」

「よっ!色男!お似合いだな。」

「カップル成立!ヒュー!ヒュー!」

と煽られ,大河は真っ赤になってにやにやしていた。

 しずくはゴミを決まった場所に捨てると脇目もふらずに家路を急いだのだった。

こうして不幸な勘違いがまたしても繰り返されたのだった。

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