第42話 終幕、英雄譚

 果たして、決着は一瞬であった。

 降臨のおかげか、〝矢〟でありながらもシャルルは無傷で破壊神へと肉薄した。 瞬きの合間に少女の身体は空を飛び、光さながら破壊神を貫く。


「――来り給え、創造主たる聖霊よウェーニー・クレアトール・スピリトゥス!」

 

 すかさず、シャルルは巨人が振り回すように剣を薙ぎ払う。拘束している植物ごと両断し、断末魔にも似た悲鳴が迸る。


「これで終わりだ、破壊神!」

 

 神に対しては一切の遠慮も憂慮もなかった。

 シャルルは八つ当たりにも近い感覚でぶった切っていく。自然落下で地面に落ちるまで幾度となく刃を走らせ、破壊神を破壊していった。

 

 この先どれほどの信奉を捧げられようとも、破壊神が力を取り戻すのは百年以上の月日が必要となるだろう。

 それほどの手応えがあった。

 どちらにせよ、自分たちが生きている間は大丈夫だとシャルルは笑う。

 シアが気を利かせて、落下途中で体は植物に支えられた。

 遠くから、クローネスが猛禽に乗ってやってくるのが見える。


「創造神よ……ありがとう」

 

 癪だったけど、シャルルは小さくお礼を述べた。

 長いこと自分を縛ってきた存在だったが、おかげで大切な仲間に出会うことができた。

 

 ――創造神としての役目はこれでお終いだ。

 

 みんなが救った世界を護りきった。

 ジェイルの死を無駄にしないで済んだ。

 これ以上、神に望むべきことは何もない。

 

 奇跡の代償は痛いほど知っている。

 

 願うのなら、もう二度と聖奠を使う機会には恵まれたくない。

 その為なら毎日のお祈りもやぶさかではないのだが、創造神は相変わらず無言のままだった。


 

 そう、神は語らない。

 人はもう、神の囚人ではないのだから。

 

 されど、人は神を語る。

 時に自ら、神の囚人であろうとする。

 

 神語りなど、人が紡ぎし物語でしかないのに――

 運命など、かつて紡がれた物語に過ぎないのに――

 

 ゆえに、運命を決めるは神にあらず。

 そうして人が切り開いた運命は、やがて一つの物語となる。

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