第27話 最後の審判

 奇しくも、全てのタイミングが悪かった。

 

 豊穣神は怒りに呑まれ、植物の声が耳に入らなかった。

 創造神は約束に縛られ、違和感を覚えながらも見過ごした。

 そして狩猟神は取り乱し、冷静さを失っていた。

 

 創世神の三人がいるべき場所にいなかった。

 クロノスの城に、街にいなかった。

 

 三人がいたのは森の中――豊穣神は戦神を目指して、創造神は豊穣神を追って、狩猟神は逃げる足に任してその場にいた。

 

 結果、気付くのが致命的に遅れてしまった。

 いや、場所が悪かっただけではない。

 それも原因の一つではあるが、全てではなかった。

 

 現に創造神はいち早くその気配を察した。近くにいた戦神や鍛冶神よりも先に、対の力に反応を示していた。

 ただ航海神が窮地に陥ってしまったので、駆け付けることも喚起を告げることもできなかった。豊穣神も同じだ。

 

 それにより、二柱に遅れを取ったはずの狩猟神が戦場に一番乗りとなった。

 果たして戦況はというと――上空から見下す限り、猖獗しょうけつを極めていた。

 

 防衛線を食い破られたのか、皇子たちの陣容は内部から蹂躙され全滅状態。指揮系統も絶たれたのか、混乱の真っただ中に幾つもの部隊が取り残されている。

 どれほど数で勝っていようとも、集団で戦うことができなければ軍勢は弱い。また軍勢は一度瓦解してしまうと、集団としての弱さに呑まれてしまう。

 

 最早これまで……壊滅は免れない。

 誰もがそう思った時、奇跡が起こった。

 

 ――絶唱。

 

 完璧に合わさった兵たちの歌声が、凄愴たる戦場の隅々まで網羅してく。

 励ますように優しく、鼓舞するように力強く聖歌は響き渡り、混乱した軍勢を導いていった。

 全滅の憂き目に遭っていた兵たちがたちまち息を吹き返し、戦場の至る所で鬨の声が上がる。

 

 その中心には二人の英雄の姿があった。

 

 それでも、旗色を翻すには至らない。

 戦神と鍛冶神の両雄が並び立ってなお、防戦一方。態勢を立て直すのがやっとで、戦況は変わらない。

 

 何故なら、そこには一柱の神がいた。

 全てを壊す破壊の神が皇帝の陣営に立っていた。

 

 彼は一人で軍勢を生み出し、支配する。動物を、昆虫を、草花を、大地を魔物に変えて、次々と戦場へと投下していく。

 

 神がいる限り、人に勝機はない。

 

 運よく逃れることはできても、勝つことはできやしない。

 非情で残酷。

 間違いなく、虐殺と呼ばれる所業であろう――人が行ったのであれば。

 

 されど、これは神の御業。

 虐殺などという、野蛮な言葉で片付けられるものではない。

 

 神が執行する以上これは――

 

 そう、これは――なのだ。

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