第30話【心に舞う花3】

 僕と誠也は、頷いた。そして、舞花のためだけのクリスマスライブを始めた。



♪寒空を見上げ 空から舞い降りて来る

幸せの花

小さくて はかなく 僕の肩に 心に 舞い降りた


出逢いは偶然なのか?

君の笑顔に聞いてみたい

でも言葉 音にならないで

今日も聞けずにいる 弱虫な僕さ


“愛”とか“恋”とかじゃなく

愛しい君を

未来もずっと 見つめていたい

だけど

僕の夢は叶わないのかい?


君が好きだと言った小さな花

名前を言われても僕には分からなかった

花屋の前を通った時、

「これだよ」と教えてくれたね

僕はその花を見て

まるで君みたいだと思ったよ

小さくて はかなげで

でも どこか強さを秘めている

幸せの花


街はクリスマスのムードで 

騒がしいねと君は

僕にだけ聞こえるくらい 小さくつぶやいて

空を見上げた


予報は雪らしくて 空の色は少しずつ

灰色になって来た頃

君が初めて僕の手を握った


“いつまでも二人で居たい” 愛しい君が

繋いだ手を強く握りしめ 言った

君の夢を叶えてあげたい


君が好きだと言った 小さな花

僕にもやっと 覚えられたんだ

花屋の前で立ち止まり

「これください」と言った僕に 驚いてたね

君はその花を見て とても嬉しそうに

微笑んだね

小さくて はかなげで

でも どこか強さを秘めている

幸せの花


出逢いは偶然か?

別れは必然か?

時は流れ ここにはもう居ない君を

この舞い降りる 幸せの花に重ねて

僕はずっと動けずにいたよ


君が生きた証

僕が生きた証

僕たちは 確かに愛し合い

君は 確かに僕のそばにいた

小さくて はかなげで

でも どこか強さを秘めている

幸せの花♪



 歌の途中で、舞花は静かに息を引き取った。僕も誠也も気付いていたが、最後まで歌おうと心に誓った。舞花の顔はまるで生きているかのような天使の微笑みだった。


『舞花・・・素敵な笑顔だよ。君の人生は最高の人生だったって言えるんだね。僕も君に出逢えた事は最高の宝物だよ。本当にありがとう。』


歌う前にはあんなに涙が溢れていたのに、歌い終わった僕は信じられないくらい心が穏やかだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 年が明け、僕はリハビリを開始した。連日のリハビリはインドア派の僕にはかなりハードだったが、それでも毎日頑張っていた。

 既に3学期が始まっているが、残念な事に僕は来年も2年生をやることが決まってしまった。普段から真面目に通っていればこれくらい休んでも響かなかったと悔やまれたが、まぁ、しょうがない。のんびりもう一年、2年生をやることにした。


そう言う事情もあって、今は完全にリハビリに専念出来る。


 誠也は、晴れて4月からは3年生だ。3人の中で無事3年生になれたのは誠也だけだ。

更に誠也は、1月にあったヴォーカルオーディションで特別賞を受賞し、今はデビューに向けてレッスンを始めている。


「はい、今日のリハビリはここまでにしましょう。」


リハビリ終了の合図を聞くと、僕は一目散に車椅子に乗り込み、病院の中庭に出る。


中庭には、舞花がいるのだ。


「お疲れぇ~。大変だったねぇ。」

「タケルぅ~♪」


一面のかすみ草がいつでも僕を受け入れてくれる。


舞花・・・

今なら素直に声に出して言えるよ。


「愛してる・・・」




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