第23話【夢の花1】

「おいっ!大丈夫か?!」

「救急車はまだかよっ!」

「しっかりして!」


 僕は遠くの方で誰かが叫んでいるのを聞いたが、あまりにも遠く過ぎて自分に言っていると言う感覚はなかった。


僕は夢を見ていたのか?

それとも金縛りにあってるのか?

まるっきり身体が動かない。


そうだっ!いつだったか、朝突然身体が動かなくなったことがあったが、その時と同じような感覚だった。あの時は舞花が危険だった時間帯と症状が出た時間帯が一致していた。


『また舞花に何かあったのか?』


 僕は、舞花が心配になった。もし今年のクリスマスに一緒にいられなくなったら、僕たちはずっと一緒のクリスマスを過ごせなくなる!舞花っ!頑張ってくれっ!と僕は必死に祈っていた。


 しばらくすると救急車の音が聞こえて来た。やはり遠くの方で聞こえている。


「大丈夫ですか?」

「聞こえますか?」


『誰が誰に言ってるんだ?僕はどうして状況が見えてないんだ?』


僕は、さっきから聞こえている誰かを気遣う言葉の状況が把握出来ていなかった。


「車の下に下半身が挟まっていますっ!」

「雪でハンドル操作が不能になってしまって。人を見つけてブレーキを踏んだんですが、間に合わなくて・・・」

「大丈夫ですか?」


色んな会話が聞こえた。僕は夢にしてはなんだかおかしい事に気付いた。

会話は少しずつ近くに聞こえて来た。


「まず、レッカーでこの車を持ち上げないとっ!」

「被害者の意識レベル、ほとんどありませんっ!」

「大丈夫ですか?!聞こえますかっ?!」


さっきより近くに聞こえて来た会話で、僕は目を開ける事が出来た。


「意識、戻りましたっ!」


突然の大声に僕は驚いた。

どうやらさっきから同じ場所で話していたが、僕の意識がなかったらしい。僕はゆっくりと周りを見た。


『えっ?なんだ?目の前に車がある。しかも車の下が見えるぞ・・・』


何が何だかさっぱり分からなかった。そこへ、


「大丈夫ですか?今、車をどけますから、少し我慢してくださいね。」


見知らぬ人が僕に話し掛けている。そして、


「お名前、言えますか?」


などと聞いて来た。


『いきなり見ず知らずの人に個人情報ばらすかよっ!』


と僕は思い、黙っていた。すると、


「あなた、交通事故に遭ったんですよ。車が後ろから滑って来てしまって、あなたをはねた後、倒れたあなたをひいてしまった状態です。私はレスキューです。」


そう言って、僕に話し掛けて来た人は自分の身分証明書を見せた。


『ちょっと待てっ!事故に遭った?車にひかれた?はねられた?僕が?』


僕は軽く・・・いや、相当パニックになっていた。楽しい事を考えるのに夢中だったのか?後ろから来る車の気配など一切感じなかった。でも実際、僕は今、車の下敷きになっている。でも不思議とどこも痛くないのだ。だから余計事故に遭ったと言われてもピンと来なかった。それより、僕は焦った。


明後日のクリスマスの事だ。


せっかく舞花が復活したと言うのに、もしかしたら僕が行けなくなるかもしれないと思うだけで焦った。


「僕、大丈夫です!何処も痛くないし!」


僕は、必死にレスキュー隊員に伝えた。すると予想外の答えが返ってきた。


「おそらく下半身の神経が切れてしまっていると思われます。」


『何言ってんだ?こいつ???神経が切れてるから痛くないだけだって言うのか?』


僕の顔を見たレスキュー隊員は、


「我々はあなたを救出するだけです。あとは医者に任せます。」


と言った。しばらくして、僕の上から車はどけられ、僕は担架で救急車の中へと運ばれた。こんなに意識がはっきりしているのに、腰から下は何もない感覚になっていた。

 これからどうなるんだろう?とそればかり考えていたが、答えは見つからなかった。



 しばらくして見覚えのある病院に到着した。それは紛れもなくさっき誠也と二人で出て来たばかりの舞花がいる病院だった。


救急の入口にはナースと医師が待機していた。僕はすぐに処置室へと運ばれた。ナースの顔に見覚えはなかったが、医師の方は偶然にも舞花の病室で何度か会っていた医師だった。

 確か、癌の専門医ではないが舞花が怪我をした時などに診る医師だと聞いた事があった。


 医師は僕を見た瞬間、驚いた顔だった。そして、


「タケルくん!?」


と叫んだ。


「どうも・・・」


僕は横になった状態で軽く首だけで挨拶した。なんとなくバツが悪いと言うか、気恥しい感があった僕はその後目を閉じてしまった。


 医師も同じだったのだろうか?それとも処置優先にと気持ちを切り替えたのだろうか?その後は僕に話し掛けることもなく処置が始まった。

処置と言っても何をされているのか全く分からないうちに、僕の意識は遠のいて行った・・・



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