第5話【冷たい花】
僕の中に入り込んだ花・・・
話し掛けた朝はあんなに元気だったのにその日の夜には既に元気をなくしてる。
あの場にいられなくて、出て来たけどあのあと二人はどうなったのか・・・そればっかり気になってる自分が嫌になって来る。
『これって舞花に惚れてるってことなんだろうなぁ?』
って言っても実は僕は恋愛なんてしたことがない。もともと男女間に純愛なんてないと思ってるしな。
僕の両親は僕が小学校の頃に離婚してる。僕は母親について来たが、しばらくして母親は別の男と再婚した。まぁ、世間でよくある【義父からのいじめ】や【暴行】なんてことは一切なく過ぎて行ったけど。中学に入って、母親が病気で他界し、僕は血の繋がっていない義父と、義父と母親の間に生まれた弟との三人で生活することになったが、義父はすぐに別の女と再婚した。母親が病気で入院してる間に出来た女らしい。
この家で血が繋がっていないのは僕と、この後妻だけ。でも後妻は義父と繋がってるから事実上僕だけが他人だ。
そんな中でホントの愛だの恋だのに憧れるわけがない。
男も女も一人でいるのが寂しいから誰かをそばに置いておきたいと思う。必要な時に欲望を満たす・・・それが恋愛だと思ってた。
舞花に逢うまでは・・・
舞花が僕たちの練習を見に来るようになってから、僕の中での恋愛の法則が少しずつ変わって来た。
僕は別に舞花にキスしたいとか、舞花を抱きたいとか思ってはいない。て言うか、チャンスがあればそりゃしたいがそれは欲求を満たすためではなく自然な流れなら・・・って感じだ。ここからしてすでに母親や義父達の考えとは違っている気がする。大人は生活のために結婚したり、社会的立場のために結婚するパターンも少なくない。そして結婚さえすれば金を掛けなくてもセックスは出来るし、欲求も満たされる。結婚とは相手を永久に無料で抱けるチケットみたいなものだとずっと思っていた僕は、結婚になど憧れた事もなかった。結婚に憧れていないのだから当然その前段階の恋愛にも全く興味がなかった。
舞花のことだって、最初は別に何とも思っていなかったし。それが今はどうだろう?誠也とあんなに仲良く話してる所を見ただけで、僕はこんなに動揺し、怒りまくってる。
『これがやきもちってやつなのか?』
僕は自分の感情をコントロール出来ずにただただ苛立っていた。そのうちそのまま眠ってしまったらしい。どうやら夢を見ているみたいだ。夢の中には、僕と誠也と舞花がいた。三人で舞花が好きだと言う場所に花壇を作っている。舞花を真ん中に挟み、僕と誠也がその両側にいる。仲良く一つずつ丁寧に花の種を植えている三人の姿が滑稽に見えた。
舞花は、花壇に種を植え終わると次に誠也の心に種を植えた。そして次に僕の心に種を植えた。舞花の手が僕の胸に押しつけられ、種が僕の心の中に吸い込まれて行ったのだ。実際そんなこと出来たらホラーだ。夢だからそんなことされても僕たちは微笑んでいた。
と、そこでいきなり目が覚めた。
僕は思わず胸を見た。
もちろん何もない。
でも確かに僕の中には既に舞花と言う花が育ち始めているのを感じた。
今朝はとても優しい温かな花だったのに、今はとても冷たい花として育ち始めていた。
明日、学校に行って誠也と逢ったらどんな顔をすればいいんだろう?舞花とまた逢えたらどんな顔をすればいいんだろう?
僕は胸を押さえながら、ベッドの上に座りそのまましばらく動けなかった。横になって眠ってしまえばまた夢の続きで、今度は僕が置き去りで誠也と舞花だけがどこかに仲良く行ってしまいそうな気がしたからだ。たった一人の女のために僕はどこまで妄想を拡げるつもりなんだろう?まったくいつもの僕らしくないのは確かだ。でも何が違うのか?と聞かれたら自分では答えられないのが正直な気持ちだった。
僕はそのままベッドから降り、音楽雑誌を取った。大型新人の記事が特集されている。デビュー曲が全部載っていた。僕は何気なくその歌詞に目をやった。
“愛”とか“恋”とかじゃなく
愛しい君を
未来もずっと 見つめていたい
だけど
僕の夢は叶わないのかい?
歌詞の中のこの部分に僕は何故か目が離せなくなった。
今の僕の気持ちそのもの・・・と言う気がしたからだ。
舞花の事も夢は叶わず、自然に忘れて行くんだろうなぁと勝手に今の自分にあてはめてしまった。
僕の恋は朝始まって、夜には終わってしまった。
残ったのは心の中の冷たい花だけだった。
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