第3話モンスターと戦った日

『それじゃあ、名残惜しいけど君達を異世界へと送るよ』


 声の主がそう宣言すると三つの光の扉が開いた。


『この光の扉はそれぞれが違う場所へと通じてます。とは言っても安心してね。僕も悪魔じゃないからさ。危険な砂漠や森に君達を放り出すような事はしないと誓うよ。まあ、あんまり人里近くだと見られると面倒だから街から1時間程度の場所だけどね』


 声の主は嬉しそうに言う。


『どこを選ぶのかは各自の自由。だけど慎重に決めたほうが良いよ。一人だけ違う扉を潜ると同じ神候補が居なくて寂しい思いをしちゃうかもしれないからね』


 イタズラな声を響かせる。どうやらからかいの意図があるようだ。


 誰しもが、動きを止める。当然だ。こんな扉を潜れといわれても未知に対する恐怖がある。

 そんな中、一人の男が歩みだす。


「こんな所で足踏みしてても仕方ないって。ここに連れてこられた時点で俺達の運命は決まってしまってるんだからさ」


 先程のイケメン剣士は全員に振り返るとそういった。


「僕たちはこの真ん中の扉を通って行こうと思う。もし、不安があるようなら付いて来てくれ」


 イケメンの言葉に五人は従う。そして扉の先へと消えていく。


 次の動いたのは四人組だ。


「なら。俺達は左の扉にいくか」


「なんで? あっちに合流しないの?」


「目的は神になる事だろ一応。今は敵対していないが、いつどうなるかわからん。それならお互いに接触しないに越した事は無い」


 この筋肉大学生は将来敵対する可能性を考えているようだ。

 結局、女はその言葉に納得したのか四人組は左の扉に消えて行った。


 さて、僕はどうしようか。

 中央の扉にはイケメンが。左の扉には筋肉が入っている。


 残されたのは僕を含めて三人。女の子の二人組みは決めかねているのかお互いに顔を見合わせている。


 それをみて僕は右の扉へと進んで行く。

 何故なら、上から目線で説くイケメンも、敵対しそうな筋肉も僕は信用していないからだ。


 今なら確実に別ルートへと行けるわけだし。選択肢が他に無かったからだ。


 僕が扉に手をかけた瞬間。


「あっ」


 後ろから引き止めるような女の子の声がした。どっちの子かはわからないが、僕は振り返ることなく留まることなく扉を潜り抜けた。



 ☆




「ふーん。ここが異世界か。ぱっとみた感じは元の世界と変わら無いみたいだな」


 まだ日中なのか陽が高い。遠くまで広がる平原に馬車が通れる程度の道。あちらの世界でも無くはない光景といえる。

 声の主を信じるのならここから徒歩1時間程で街につけるはずだ。


「インベントリ」


 僕は早速インベントリを開けるとその中身を取り出し始める。


【聖剣エクスカリバー】【スレイプニルブーツ】【覇者のマント】【光の鎧】【聖竜の盾】【星屑の首飾り】【星屑のイヤリング】【セイフティリング】【ソロモンの指環】【ニーベルングの指輪】



 あの神界の台座にあった装備のオンパレードである。

 何故そんな装備を僕が持っているのかというと――。




 ユニークスキル:Duplicate


 発音は【デュープリケイト】意味は複写するという意味だ。

 ネットゲームで度々使われる【デュープ】というのはならかのバグを使って不正に有用なアイテムを増やす事を指すのだが、僕のは自前の能力だ。


 僕の能力は”右手で触れたアイテム”をインベントリに複写するというものだったのだ。

 だからこそ、持ち出し禁止の固定された状態でも触ることさえ出来ればアイテムを増殖させることが可能だった。


「うん。これだけあれば異世界でも快適に暮らしていけそうだね」


 恐らくあの部屋にある武器や防具はこの世界のどのようなアイテムに比べても優れているに違いない。

 だからこそ制約無く持ち出せるかは賭けだったのだが、上手いこと行ったようだ。


 僕は早速装備を身につけていく。


「これでよし。まだ序盤だろうから大した敵は居ないだろうけど、出てきたらこれで切り伏せよう」


 神候補をいきなり死にそうな目にあわせるほどあの声も腐ってないだろう。僕はエクスカリバーを片手に町への道を進み始めた。




 この世界に降り立ってから数十分は歩いた頃、僕の目の前に大きな物体が立ちふさがっていた。


「なんだこれ?」


 太陽の光を浴びて金色に輝く甲羅型の山。その頂点は3メートルはあろうか?

 全長で10メートル。幅は5メートルのそれは、僕が進んできた街への道に横たわっていた。


「まてよ………………」


 僕はインベントリから新たに【神の瞳】を取り出す。

 これはアイテムの効果を鑑定してくれるほか、他人のステータスを覗く事が出来る。これならばこの物体が何なのか調べる事が出来るかもしれない。


 僕は恐る恐る神の瞳を使用した。




固体名:ゴールデンタートル


レベル: 105


HP 15000

MP 1500

STR 10000

DEX 100

VIT 800000

INT 500

MND 500


解説:陸地に生息するモンスター。温厚で、こちらから攻撃を仕掛けない限りは攻撃してこない。高い防御力を持っている。




「これ。どう考えても序盤で相手するような奴じゃないよね…………」


 僕は表示されているステータスを見てそう考えた。


「温厚でこちらから攻撃しない限りは攻撃してこないか…………」


 つまりこのまま迂回してしまえば問題ないという事なんだろうけど…………。


「悪いけど僕は迂回するのが嫌いなんだ。倒させてもらうよ」


 そう言ってエクスカリバーを抜いた。



 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


 僕はエクスカリバーを抜いてやる気をみせる。

 だが、肝心のゴールデンタートルは気付くことなくのっそりと道を移動していた。


「さて。まずは斬ってみようかな」


 そういいつつ僕はエクスカリバーに神の瞳を使用する。


名称:聖剣エクスカリバー

効果:あらゆる物体を切り裂く聖剣。その切れ味は魔王のバリアをたやすく切り裂き、山を割り、海を割ったと言われる。


 効果の説明を信じるのなら一撃で倒せると思う。だが、剣というのは使い手次第というところもあるのだ。

 僕はこれまで剣を習ったことは無いので、レベル1の人間が使っても同等の威力を得られるかまでは解らない。


 まあ、最悪逃げればいいんだけどね。

 僕は覚悟を決めると聖剣を構えると――。


「くらええええええええええっ!」


 甲羅めがけて真横に振るった。


「あれっ?」


 何の抵抗も無く剣は左から右に振り切れた。


 まさかの空振り?

 ニーベルングの指輪の効果は何処に行った? 

 武器全般を取り扱う事が出来るじゃ無いのかよっ!

 僕は誰も見ていなかったことに安堵して顔を赤くしていると。



【ズズズズ】


「ん?」


 何かがこすれる音がする。


【ズズズズズズズドン】


「へっ?」


 急遽、目の前の道が開けた。それと同時に――。


「あっ、っつ!?」


 身体を不思議な感覚が駆け巡った。


 僕は慌てて自分のステータスを確認する。



氏名:藤堂 直哉(とうどう なおや)


レベル: 55


HP 1500

MP 1500

STR 900

DEX 900

VIT 900+100

INT 900

MND 900


称号:神候補


ユニークスキル:Duplicate インベントリ


SP:54000


 どうやら攻撃は空ぶっていたわけではなく当たっていたようだ。僕はゴールデンタートルを倒した。

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