第45話 茉理sideから浩平sideへ

 セイヤと分かれた茉理は、先ほどセイヤの言っていた言葉を噛み締めていた。アマゾネスへの、感謝と応援の言葉を。

 憧れの相手からあんなことを言われたのだ。嬉しくないはずがない。

 それともう一つ。セイヤの言葉は、記憶の奥底に眠った別の言葉を呼び起こしていた。




「僕たちが助かったのは、茉理のおかげだよ。ありがとう」


 幼稚園の頃に起きた誘拐事件及び、茉理大暴れ事件。その後周りから恐れられていた茉理にそう言って手を差しのべてくれたのは浩平だった。


「浩平は、私のこと怖くないの?」

「全然。悪いやつをやっつけるなんて、ヒーローみたいでカッコいいじゃないか」


 無邪気に笑う浩平を見て、ズキズキとした胸の痛みが消えてくのを感じた。





「ちゃんといるんだ。私の味方になってくれる人が。浩平はずっと私を応援してくれていた」


 そんな当たり前の事を、どうして今まで忘れていたのだろう。思えば二つ返事で魔獣と戦うことを決めたのだって、その時の浩平の言葉があったからかもしれない。

 思えば、応援してくれている人は他にもいた。スマホを取りだし、アマゾネスと入力し検索をかける。出てくるのは相変わらず「怖い」「グロい」がほとんどだが、その中に確かに応援する声もあった。

 それは今までにも何度か目にして、だけど大多数の悪意に埋もれ、その価値を見落としていた。だけどセイヤに言われて気づく。数は少なくても、確かに自分を認めてくれている人がいることに。


 そう思うと、不思議とこれまで抱いていた戦うことへのためらいが消えていくような気がした。

 捉え方によっては、それはとても身勝手なのかもしれない。怖がられたら戦いたくないと言い、味方をしてくれる人が現れたら再び戦おうなんて、自分本位以外の何物でもない。

 人から恐れられてまで、誰かを助けられるような立派な志しなんて持っていない。

 だけどそれでも、自分を肯定してくれる人がいるなら、その思いを背に受けて戦うことはできる。わがままな動機かもしれないけれど、それが自分の戦う理由。浩平から始まって、セイヤが気づかせてくれた、とても大切な理由だ。


「今行くから」


 一言呟いて、そして駆け出す。今も戦っている友人の元へ。自分の後を継いだ、もう一人のアマゾネスの元へ。




         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「浩平くん、大丈夫かニャ」

「はぁ………はぁ………」


 バニラが心配そうに声をかけるが、それに答える余裕は無い。肩で息をきらせる俺の前にいるのは、6体にまでその数を減らした魔獣達だ。

 逃げまわりながら隙を見て攻撃、それを繰り返しながら4体の魔獣を撃破したはいいが、体力集中力共に既に限界に近かった。


「ふははははは!アマゾネスよ、よくぞここまで頑張った。だがもはやこれまでのようだな」


 俺の疲弊は相手にも伝わっているようで、シレーのやつが勝ち誇ったように言う。だがその時、四天王の一人がシレーを呼んだ。奴らは相変わらず浴びるようにビールを飲みまくっている。


「ヒック……おーい、もう一本追加だ」

「はいはい、ただいま」


 喋るのを中断し、追加のビールを用意するシレー。四天王はもはや完全にできあがっていて、俺のことなど見てもいない。

 腹立たしい限りだが、それに文句を言う元気すら残っていなかった。

 シレーは四天王の接待をウワンに引き継ぐと、再び俺に向かって言い放つ。


「これまでの貴様とその師匠によって出世は妨げられ、精神的苦痛を受け、胃潰瘍になった。その恨みを今こそはらしてくれる!かかれ魔獣共!」


 号令を出すや、残る魔獣が俺目掛けて一斉に襲いかかってきた。これまでかと諦めかけて、頭に浮かんだのは別れ際の茉理の顔だった。


「ごめん、茉理。無事に帰るって約束、守れそうにない」


 自分の無力さに歯痒くなる。魔獣にやられることよりも、茉理を悲しませる事が悔しかった。

 そうしている間にも魔獣はあっという間に距離を積め、その鋭い爪を俺に向かって振るった。

 だがその時だった。


「――――――へっ?」


 間のぬけた声をあげた俺の目の前に、魔獣の姿は無かった。あの巨体が一瞬にして忽然と姿を消していた。

 だが辺りを見回すと、それはあっさりと見つかった。少し離れた場所で、頭部を大きく陥没させた状態で倒れていた。

 それを見た俺は、あの魔獣が殴られたのだと理解する。殴った衝撃により一瞬であそこまで吹っ飛ばされたと見て間違いないだろう。

 もちろんそんなことができるやつなんて、俺は一人しか知らない。もう一度辺りを見ると、思った通りそいつは、森野茉理はいた。


「ごめんね浩平。来ちゃった」


 茉理はそう言いながら、少しいたずらっぽく笑った。

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