第19話 さよなら魔法少女 1

「肝心の、茉理ちゃんが魔法少女を止める件が何も解決してないニャ」

「いや、だから止めることにしたから終わりなんだろ?」

「終わりじゃないニャ。茉理ちゃんが止めたらいったい誰がシンリャークと戦うニャ!」


 言われてみればそんな問題もあったな。すっかり忘れてた。

 さんざん恋愛事を優先しておいた俺が今更言う資格は無いかもしれないが、確かに茉理が戦わなくなるのはまずいよな。

 すると茉理は申し訳なさそうにしながら、それでもこんな事を言ってきた。


「それなんだけどね、バニラの言う魔法少女って、元々魔法のステッキと契約して力を得るんだよね?」

「そうだニャ。茉理ちゃんの場合自前の筋力が凄すぎて契約すらしてないけど、それが本来の魔法少女のあり方だニャ」

「だったら、その契約をしてくれる子を新しく探せばいいんじゃないかな?」

「あっ……」


 そういえばそうだな。そうして新しい魔法少女を見つけたら何も問題は無くなる。むしろバニラの役割を考えると、今までの状況の方がイレギュラーだ。

 俺はそれを聞いて納得するが、バニラはまだ納得がいかないようだった。


「そうすれば代わりはできるけど、茉理ちゃんが止めちゃうのは嫌だニャ。茉理ちゃんにはこれからもずっと魔法少女でいてほしいニャ」


 まるで駄々をこねるように、床にうつ伏せながらジタバタと手足を動かしている。


「でもバニラだって、アマゾネスじゃなくてもっとちゃんとした魔法少女が良いって前から言ってたじゃない」

「ああ。しょっちゅう不満を言ってたよな」


 そんなバニラからすると、今はすっかりバイオレンスになってしまった状況を修正するチャンスだ。なのにどうしてこんなにもごねるのだろう。


「確かに言ったニャ。ハートフルな展開に憧れるボクにとって、新しい子を見つけるってのも一つの手だニャ。だけど、茉理ちゃんくらい強い子なんてどこにもいないニャ。戦力が圧倒的に低下するニャ」


 それはそうだろうな。バニラの言うリアル魔法少女がどんなものかは見たこと無いので分からないが、茉理より強いことはまずあるまい。

 だがバニラがごねる理由はそれだけじゃ無かった。


「それに、面と向かって言うのはちょっと恥ずかしいけど、茉理ちゃんと一緒に魔法少女をやるのもとっても楽しかったんだニャ。バイオレンスにはバイオレンスの良さがあるニャ」

「バニラ……」


 少し照れ臭そうに言ったバニラは、だけど珍しいことにとても真剣だった。


「ボクと茉理ちゃんと、ついでに浩平くん。この三人でこれからも一緒に続けていきたいニャ」

「俺はついでかよ!」


 ツッコミはしたが、言いたいことは俺にも何となく分かる。

 ほぼ茉理のワンマンではあったが、俺達は間違いなくチームだった。不謹慎かもしれないが、魔獣退治はどこか楽しくもあった。

 茉理が抜けると言っても、俺達は二度と会えなくなるなんて事はない。だがこれまでとは確実に何かが変わってしまう。そう思うとどこか寂しい。


「お願いだニャ。止めるなんて言わないでほしいニャ」


 これにはさすがに茉理も堪えたのか、今までで一番辛そうな顔をする。だけど全てを聞き終えて、その後それでも首を横にふった。


「ごめんね。やっぱり無理」

「なんでニャ?どうせ正体は秘密なんだから、何も問題ないニャ」

「正体が秘密かどうかは関係ない……こともないけど、例えバレなかったとしても、もう今まで通りにはできないの」


 気持ちに応えられなくて、茉理も心苦しいのだろう。その表情は辛そうだ。だがどんなに頼んでも、止めると言う意思だけは頑なに変えようとしない。

 茉理は体こそ強靭だが、性格的には温和で、ここまで譲らない姿はは見たことがない。そこまでセイヤが大事なのか。そう思ったが、さらに茉理はこんな事を言った。


「ついでに言うとね、なにもセイヤ様に好かれたいってだけで言ってるんじゃいんだ」

「まだ他にも理由があるのか?」

「うん……」


 頷いた茉理は、そこで一度口を閉じ、なかなか続きを語ろうとしなかった。


「言いにくい事なのか?」

「少し。でも、ちゃんと言うから」


 茉理はそう言うと、何かをふりきるように首を振り、言った。


「きっかけは、やっぱりセイヤだったんだけどね。セイヤ様のファンとしてふさわしいような可愛い女の子になりたい。そう思って今までの自分を振り返った時、改めて思ったんだ。私、人から怖がられるような事ばっかりしてるって」

「えっ?」


 思わず声をあげたのは、茉理の言葉があまりにも意外だったからだ。


「それってつまり、怖がられるのが嫌だから止めたいって事か?」

「うん」


 静かに肯定する茉理。それを見て俺は、なんだか申し訳ない気持ちになった。


(すまん、俺はてっきり、お前はそう言うのは気にしないんだと思っていた)


 だがそれを伝えたら茉理が傷つく事は目に見えている。ここは極力顔に出さずに、心の中で謝るだけにしておこう。


「えっ?茉理ちゃんそういうの気にしてたのかニャ?てっきり、人から何と思われようと平気だと思っていたニャ」


 俺の気づかいなど全く無視して、バニラが驚きの声をあげた。おい、いくらなんでもそれだけストレートに言うこと無いだろ。ほら、茉理も見るからにショックを受けている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る